8歳のときに性被害を受けた女性 「死にたい」とも思うように
今年6月、和美さんは大分県を訪れました。ある人に会うためです。工藤千恵さん(51)。2人は10年来の友人です。
千恵さんが受けた心の傷。それは43年前に遡ります。1980年、大分県内の小学校近くの路上で誘拐事件が起きました。小学3年生の少女が56歳の男に連れ去られ、性犯罪の被害にあいました。8歳の被害者A子が千恵さんです。
(工藤千恵さん)
「ちょうどこの辺です、声をかけられたのは。加害者はあちらから歩いてきて、私はこちらから歩いてきて、ここで道を聞かれたので」
いつもと変わらない塾の帰り道。突然、見知らぬ男に「道を教えてほしい」と声をかけられました。「知りません」と返すと、手首をつかまれ、そのまま引っ張られながら連れ去られました。
(工藤千恵さん)
「本当に怖いときって声が出ないんだというのが自分の経験でわかります。ひとことも出ないし、かすり声とか小さい声さえもここで詰まるんですよね。助けてって言いたいけど」
そして約1km離れた畑で性被害を受けました。近くを通りかかった人が110番通報をして、まもなく複数の警察に囲まれ、男は取り押さえられました。
事件の概要は翌朝の新聞に載りました。
(工藤千恵さん)
「次の日、学校に行って教室に入った途端、クラス全員が私を囲んで『新聞に載っていたA子ちゃんって千恵ちゃんなんやろ』『暴行されていたって書いていたけどお前どこもケガしてないやん』ってみんなから言われ放題、聞かれ放題になってしまったんですよね」
「A子は私じゃない」と否定して隠し続けました。次第に心を閉ざすようになり、友達はできませんでした。女性らしくなっていく自分の体に、また被害にあうのでは、と感じるようになります。鏡で自分の姿を見ると気持ち悪くなり、「死にたい」とも思うようになりました。