大量に噴出した火山ガスが、やがて霧となって広範囲にわたって太陽光を遮断したため、世界の気温が低下したのです。江戸時代、100万人が餓死した「天明の大飢饉」も、ラカギガル火山列の噴火が原因という説が有力です。番組ではこの噴火の跡を撮影したのですが、噴火から240年経ってもまだ木々は生えておらず、コケが生えているだけ。広大な溶岩の大地がすべてコケで覆われて、一面の緑と化している景観は不思議な魅力がありました。

長さ実に7000キロ「大地溝帯」
もうひとつ、地上に現れている珍しい「巨大な大地の裂け目」がアフリカの大地溝帯(英語だとグレート・リフト・バレー)。これはアフリカ大陸の東側を南北に走る裂け目で、アイスランドと同じようなマントルの動きで出来たのですが、その長さは実に7000キロにも及びます。この大地溝帯には、いくつも世界遺産があります。

やはり大地の裂け目なので、ヴァトナヨークトルと同じく火山が多く生まれます。アフリカ最高峰のキリマンジャロ、アフリカで2番目に高いケニア山、共にこの大地溝帯にあり、それぞれタンザニアの「キリマンジャロ国立公園」、ケニアの「ケニア山国立公園」として世界遺産になっています。


両方とも番組では何回か撮影していますが、標高5000メートルを超える頂上には氷河が残っています。ヘミングウェイの小説「キリマンジャロの雪」でも描かれた貴重なアフリカの氷河ですが、温暖化の影響で年々小さくなっていることが、新旧の映像を比較するとよく分かりました。

直径19キロもある巨大なクレーター「ンゴロンゴロ保全地域」
タンザニアには「ンゴロンゴロ保全地域」という世界遺産もあり、これは直径19キロもある巨大なクレーターです。やはり大地溝帯にあって、300万年前の大噴火で出来たとされます。ンゴロンゴロとは先住民マサイの言葉で「大きな穴」を意味するのですが、この大きな穴の中には、サイやゾウなどの大型草食動物、チーターやライオンなど肉食動物など実に2万頭以上の動物が暮らしています。300万年の時の流れが、巨大噴火の火口を野生の王国へと変えたわけです。

アフリカの大地溝帯は幅が数十キロある巨大な谷でもあって、その谷底にはいくつも湖が点在しています。ケニアの、その名も「グレート・リフト・バレーの湖群」は大地溝帯の3つの湖を世界遺産にしたものです。火山地帯の湖のため、水質はミネラルを多く含む強アルカリ性。ほとんどの生物には適さない環境ですが、それに耐える藻類が繁殖していて、その藻類を食べているのがフラミンゴ。フラミンゴの脚の皮膚は強く、強アルカリ性の水でも大丈夫。他の生き物にとっては死の世界ともいえる湖を、藻類を求めて飛び回って移動しています。


このように、地球内部のマントルの動きが巨大な大地の裂け目を生み、その裂け目が多くの火山を生み、特異な景観や自然環境を生む・・・ヴァトナヨークトル国立公園も、アフリカの大地溝帯の多くの世界遺産も、こうした地球の歴史のサイクルを示すものとして世界遺産になっているのです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太