「私はただ平穏に暮らしたいだけなんだ」

周囲で誰か聞いていないか。誰も見ていないか。そんなそぶりをし始めた彼は、ふと私の持っているカメラに目を止めた。

「まさかそれで今撮影していないだろうな?」

私は「撮っていない」と答えたが、彼が話を続けることはもはやなかった。動揺した彼は頭から汗を吹き出しながら「私はただ平穏に暮らしたいだけなんだ。余計な面倒には巻き込まれたくない」と言って、私たちを部屋から追い出した。

彼が何を伝えようとしたのか、今となってはわからない。しかし、彼の仕草、あの動揺ぶりが、何よりも雄弁にウイグル族の現状を物語っていたように思えた。

2023年撮影 カシュガル 鍵がかけられているモスク