■ 魅力たっぷりの鯨の革──しなやかさと独特の光沢

鯨の革と他の皮との違いは──ふわふわとした手触りです。
さらに、使い続けて出てくる変化にも、他の革とは違う味わいがあると言います。

中山さん「こういうやつ(牛革)って紫外線と反応して、だんだんこう茶色に経年変化していきます。『渋く変化』していくというか。鯨の場合は、これを使っていくと肌ですとか、いろんなものと擦れるたびに表面が締まってきて、『光沢がすごく出てくる』んですよ。なので、渋い変化というよりもものすごく『綺麗な変化』をしてくるんですよね」

さらに、特有の『しなやかさ』も持ち合わせている鯨の革。牛革と比べても、その違いは明らかです。

中山さん「ズボンの膝の部分って、硬い布だと、曲げ伸ばしでどんどん傷んできますけど、ストレッチデニムみたいな感じで生地自体が伸びてくれたら、傷みにくいんですよね」

鯨の革は伸縮性に優れている分、加工が難しく、切り出すための線は慎重に引きます。

強度をつけるために貼り合わせるのは、適度な硬さと耐久性を持つ”猪の革”です。
猪を使っていることにも”粋な理由”がありました。
中山さん「猪のことを昔は"山鯨"と(言った)。山の鯨で"山鯨"と呼ばれていて。山の鯨と海の鯨で『鯨づくし』っていう」

まだまだ鯨の希少性は高く、同じ大きさの牛革と比べると、その仕入れ値は100倍以上します。ロスは極力少なくします。
中山さん「私としてもまだまだ研究途中なんで、多分もっと可能性を秘めていると思うんですよね。(活用や加工技術などを)探していかんばいかんですね」

工房を訪れたお客さん「失礼します」

魅力たっぷりの鯨の革にはファンもいます。
名刺入れを愛用しているこちらの男性は、友人の就職祝いにと、同じものを依頼に来ました。
池松 翔太さん「見た目での重厚感があるにもかかわらず、持っていたらすごく軽くて持ちやすい。ずっと肌身離さず持ってるものなので持ちやすいなっていうのがありますね」
10年以上追いかけ続け、ようやく形となった鯨の革製品。
中山さんの次の目標は長崎の『特産品』にすることです。

中山さん「大村には鯨の革製品たくさんあるんですよっていうのが根付いていけば、自分はもう最高だと思ってます。そこから先、県内にはさらに多くの事業者さん、職人さんいらっしゃるんで、そことも一緒にやっていければ ”長崎って鯨よね” プラス ”長崎といえば鯨革工芸よね” っていうところまでいけたら、もう最高だなと思いますね」

大村市の小さな工房が復活させた鯨革工芸。
一度は途絶えてしまった長崎の伝統に、新たな火を灯す中山さんの挑戦です。