風光明媚な景勝地として知られる横浜市・金沢八景。海を臨むこの場所に2021年11月、東日本で初となる子どもホスピス「うみとそらのおうち」が開設された。
娘・はるかちゃんの死から24年を経て、田川さんの夢が形になった。

膳場キャスター
「とても気持ちのいい空間ですね。おしゃれだけではなく機能的もありますね」
「うみとそらのおうち」 田川尚登代表
「やっぱりこの建物は空気感が命だと思うので、色んなところに工夫を凝らしました。車いすのお子さんでも入りやすかったり…」
オープンキッチンは、家族で一緒に料理ができるように大人と子どもで作業台の高さを変える工夫。2階には個室が3つあり、スタッフの体制が整えば今後、利用者家族が宿泊することもできる。特にこだわったのは浴室。家族全員で入っても十分な大きさで、体を動かせない子どものために部屋から浴室まで乗せて移動できるリフトも設置されている。

自治体もこの施設を支援している。横浜市は30年間土地を無償で提供し、看護師1人分の給与も市が5年間負担する。家具やオモチャなどの備品は、企業から寄贈されたものやクラウドファンディングで調達したものだ。
「うみとそらのおうち」がオープンすると、待ちわびたように病気の子どもを持つ親から利用の申し込みが相次いだ。
その1人、光常怜ちゃん、3歳。2021年の春頃に体調を崩し、血液のがんを患っていることが分かった。幼い怜ちゃんにとって、治療は辛いものだったが、今では病状は落ち着き、元気を取り戻せているという。
それでも、常に病気への不安がつきまとい、両親は大きなストレスを抱えてきた。

怜ちゃんの母・杏里さん
「(治療中で)免疫が低いので、風邪をひくとまた入院になっちゃう。やっぱり病気のことを友達とか近い人に言うのが嫌で、どうしても家族で閉じこもってしまう。世間から置いていかれるような感じでした」
ネットで病気について調べているとき、このホスピスを知ったという。
怜ちゃんの母・杏里さん
「『あ、ここだ』って。どこか遊びに連れていきたいなと思っていて、でも行ける場所がない中で、やっとたどり着いたという感じですね」
病気の子どもがいる家庭では普段できない遊びもここでは体験できる。この日、スタッフはキャンプ気分を味わってもらおうと、マシュマロと焼き芋のバーベキューを準備した。
スタッフは田川さんを含めて6人。子どものケアを熟知した看護師3人や保育士1人もいるが原則、医療行為は行わない。子どもの体調に気を配りながらも、気軽に話せる“友”という立場で寄り添っている。子どもの兄弟の世話もスタッフが率先して行う。親にもくつろいで欲しいという配慮からだ。

怜ちゃんの父・正次さん
「一度も手に入らなかったよね、こういう機会は。最初から最後まで嬉しそうに楽しそうに過ごせているのが一番よかったです。」
怜ちゃんの母・杏里さん
「手に入れたくても中々手に入らない時間でした、今まで」
子どもと家族の利用が始まり、代表の田川さんの思いもひとしおだ。
「うみとそらのおうち」 田川代表
「やっぱり必要な施設だと実感しています。ひとりで感激して、本当に涙が出てきました」
■病気の子ども抱える家族は“制度の枠外” ホスピスの定義は…
利用者の1人、6歳の恵麻ちゃん。ホスピスに遊びに来た日、2階にはテントが張られていた。今までキャンプをしたことがない恵麻ちゃんがネットでキャンプの動画を見て、自分もやってみたいと両親に話したことからスタッフが恵麻ちゃんのために用意した。

恵麻ちゃんは2歳8か月の頃に首などの痛みを訴え、神経細胞にできる小児がんの一種・神経芽腫と診断された。
恵麻ちゃんの母・眞澄さん
「まさか神経芽腫で、小児がんだなんて思ってもみなくて…」
恵麻ちゃんは3年にわたり、化学療法や手術を受けてきた。光を見出だせない闘病生活のなかで「うみとそらのおうち」の開設を知った両親。2021年のクリスマスに初めて利用して以来、退院中は月に一度のペースで訪れている。

施設では利用者が親戚や友人を連れてくることも歓迎している。恵麻ちゃんも、同じ病気の女の子がいる一家と一緒に、お菓子作りを楽しんだ。2人はこの時が初対面。長い闘病で幼稚園にも行けなかった恵麻ちゃんに、同年代の友達が出来た。
恵麻ちゃんの母・眞澄さん
「どんどんしんどくなっていく時間は増えるんだと思うんですけど、ここで笑って過ごす時間は減らしたくない。むしろ増やしていきたいと思っています」
病気の子どもが受けられる医療や福祉サービスもあるが、それは原則本人に限られ、この施設のように家族や友人まで利用できる場所は、制度の枠外だ。
「うみとそらのおうち」 田川代表
「楽しい時間作りに、制度というのは似合わないと思うんです。これを地域課題として、地域の行政と一緒に取り組んでいくことが必要だと思うので、病気の子どもと家族を真ん中に置いて、色んな方々で一緒になって家族と寄り添っていけるような、日本のホスピスの定義をみんなで考えていければいいなと思っています」
(報道特集 2022年5月28日放送)
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