■日本でも計画されていた学校襲撃事件

バイデン大統領が嘆くように、銃乱射による学校襲撃事件の背景には、アメリカ特有の社会病理もあるのだろう。だが学校襲撃事件は、“遠いアメリカの話”ではすませられない。今回の事件で、改めて思い出すのは、2000年にあった「西鉄バスジャック事件」だ。佐賀発福岡行きの高速バス(乗員・乗客22人)を、牛刀を持った17歳の少年が乗っ取った。事件発生の翌日、東広島市のサービスエリアで、警察官がバスに突入して少年を逮捕。乗客の女性3人が少年に切りつけられるなどして1人が死亡、2人が重傷を負った。

当時17歳の少年も、中学校でいじめを受けていた。やがて不登校になり、高校を中退。家庭内暴力が悪化し、療養所に入院していた。事件を起こしたのは、外泊許可が出た時だった。少年は当初、中学校を襲撃しようと計画していた。

事件の被害者で、医療少年院の依頼で少年とも3回会った佐賀市の山口由美子さん(72)にも今回、話を聞いた。山口さんは、不登校や引きこもりの子どもの親同士が支えあう親の会「ほっとケーキ」や、子どもたちの居場所づくりの場として、フリースペース「ハッピービバーク」を運営、自ら代表を務めている。

「当時の少年は、いじめ加害者たちへの恨みはもちろん、問題を解決してくれなかった学校、教職員への恨みを募らせていたのではないだろうか。いじめを受けて辛かったことを友達や家族の誰かに聞いてもらったり、受け止めてもらったりできていたら、全く違った展開になっていたはずだ。彼にはそういう存在がおらず“孤立”していた。自ら選ぶ“孤独”ではなく“孤立”は本当に辛い」。

■いじめ予防教育は 被害者・加害者どちらの未来も救う

最後に強調しておきたいことがある。“いじめ被害者は将来の犯罪者”というイメージは誤りだということだ。いじめ問題で世界的に著名な研究者のダン・オルウェーズ(Dan Olweus)の1980年代の調査(ダン・オルウェーズ『いじめ こうすれば防げる』川島書店1995年)によれば、“いじめ被害者”だった子どもが青年になって犯した犯罪件数は、平均またはそれよりやや少なく、“いじめ加害者”のほうが多かった。

学校での適切な“いじめ予防”教育は、被害者、加害者、そして周辺の人々も含めて、未来を少しでも明るくしてくれるものだと感じるのは私だけではないだろう。

執筆者:TBSテレビ「news23」編集長 川上敬二郎