「ハルヘイ、シス」

「卒業証書、石山春平」
石山春平さん(87)=神奈川県在住=。75年前にもらえなかった小学校の卒業証書を受け取った。
石山さんはいまから75年前、現在の静岡県御前崎市の小学校に通っていたが、6年生の時、ハンセン病と診断され、退学させられた。
<石山春平さん(87)>
「先生が僕を学校から追い出す時は、足で腰を思いっきり蹴られたの。そしたら、先生がね、石山は汚い病気にかかった、汚い病気にかかったから、お前たち触っちゃいかんって」
学校を追い出された後、石山さんが教室で使っていた机や椅子はすぐに燃やされてしまったという。
石山さんは、家族に迷惑をかけたくないという気持ちや孤独から山の中に入り、「ハルヘイ シス」と近くの木に彫って、農薬を飲んで死のうとした。
農薬を口にする直前に死後の世界が怖くなり、思いとどまったが、その瞬間から「きょう限りで、石山春平は死んだ」と考えることで、心に区切りをつけたという。
国も誤りを認めたが…

かつて「らい病」といわれたハンセン病は、「らい菌」によって感染し、熱い、冷たいなどの感覚を失ったり、治療が遅れた人は顔や手足に後遺症が残ることが多く、それが偏見につながった。
特効薬の登場により、ハンセン病が治る病気となってからも、国は明治時代に作った法律を形を変えながら残し、患者の隔離を続けた。
2001年、裁判所は国が誤った法律に基づいて、ハンセン病患者に著しい人権侵害を行ったと認定。国も誤りを認め、当時の小泉純一郎総理大臣が元患者に直接謝罪した。
石山さんも15年間、世間と隔てられた生活を送ったのち、障害者施設などで働き、家庭ももうけた。
<石山春平さん(87)>
「6年生を修了させてくれたらうれしかったなって思ったけど、追い出されちゃったからね。よほど悪いことしなきゃ、学校から追い出されるっていうのはあり得ないですよ」
石山さんを支援する人たちは、石山さんに小学校を卒業してもらい、名誉を回復してほしいと静岡県や御前崎市に働きかけ、ようやく卒業式が実現した。