まず、岸田総理の長男の翔太郎氏が公邸で開いた忘年会や、マイナンバーカードをめぐる数々のトラブルで足元の内閣支持率が下落傾向に転じた。また、自民・公明の選挙区調整が難航し、東京では公明党が自民候補の見送りを決定するなど、両者の関係が悪化した。
こうした状況を受け、麻生副総裁や茂木幹事長ら自民党幹部が相次いで早期解散に慎重論を唱えていた。麻生氏にいたっては自民党本部で岸田総理と会った際に直接こう伝えたという。

自民・麻生太郎副総裁
「(解散は)今ではない、今やるべきではない」
岸田総理はその場では特に反応はしなかったというが、G7広島サミット直後の高揚感は徐々に失われ、早期解散は難しいのでは、という判断に傾いていったようだ。
側近5人との協議で“解散見送り”を最終決定
6月15日の午後3時頃、総理官邸にいた岸田総理は、自分の執務室に5人を招き入れた。呼ばれたのは松野官房長官、木原官房副長官、磯崎官房副長官、栗生官房副長官、そして嶋田総理秘書官(政務)。それぞれが1人ずつ執務室に呼ばれて、「立憲民主党の動きをそれぞれ情報収集してくれ」と言われたという。

この時点で参議院では、防衛費の財源を確保する特別措置法案やLGBT理解増進法案などの重要法案が残っていたが、呼ばれた一人は「法案がどうなるか、そこは総理は気にしていた」と証言している。
それから約2時間後の午後5時半。今度は5人がいっぺんに執務室に集められ、重要法案は16日午前に成立する見通しであること、立憲民主党による不信任案提出の動きなどが報告された。
岸田総理は5人に対し「即刻否決をする形を取りたい。党への指示や公明党へ協力を伝えようと思う。何か言っておくべきことなどはないか」と聞いた。不信任案の即刻否決、というのは遠回しに“解散には踏み切らない”、ということを意味していた。
その後、岸田総理は、公明党の山口代表や自民党の麻生副総裁、茂木幹事長ら与党幹部に電話をかけ始めた。当初の総理への声かけ予定時刻は午後6時15分メドだったが、数分遅れたのは、幹部の一人がなかなか連絡がつかなかったためだという。総理からの電話を受けた、ある自民党幹部は総理の決断を評価した上で、こう進言したという。
自民党幹部「明日の野党の動きが変に注目浴びるより、今日で終わらせてつまらなくしちゃいましょう」
一方で、別の幹部は、電話が終わると周囲にこう漏らした。
自民党幹部「正直、今回は絶好の機会だった。果たして今後、こんな機会があるのかどうか。『もっと良い機会があるかも』と考えて先延ばしにしていると、今以上の機会は訪れなくて、解散が打てなくなる」
では、当の総理はどういう思いだったのだろうか。