佐藤風はラスト30mの修正で44秒台に
280mで中島をリードした佐藤風も、44秒台へ、千載一遇のチャンスを逃した。取材エリアでは「いやー、これ本当に悔しいですね」と、中島と同じ言葉を発した。

「ラスト30mを修正すれば44秒台は出ると思います。上肢(肩回りで体幹に直接付着している部分)を落とせず、開いたような腕振りになってしまいました。それが崩れずに勢いをキープできれば、44秒台も出たんじゃないかな」
300mまでに中島より前に出ていた。テーマとしてきたその部分はクリアした。
レース全体でいえば、これも中島と同じように前半の走りを課題に挙げた。
「やっぱり自分の持ち味は前半です。今日は最初200mまで中島選手と変わらない展開になってしまって、(300mで少し前に出ても)終盤で差されています。もっと前半でいい位置を取れていれば、彼の持ち味が出る前に勝つ展開に持ち込めました。もっともっと前半を突き詰めていって、44秒台の選手になりたいですね」
佐藤風が前半を、日本選手権よりも速いペースで飛ばすことで、中島も含めた全体の前半のペースが上がれば、日本人2人目の44秒台が現実になる。
海外転戦で経験を積み世界陸上決勝へ
中島の今季の最大目標は「世界陸上で決勝に残る」こと。昨年の世界陸上オレゴンの準決勝を、決勝に進出した各組の最低記録を調べてみた。1組が44秒97(3位)、2組が44秒94(2位)、3組が44秒78(3位)だった。

本番の、それも準決勝でこれらのタイムを出すことは簡単ではない。しかし今の中島には、それが期待できる。日本選手権も前半の走りに課題が残り、「ちょっと、 最後、崩れてしまったところ」もあった。ノビシロは十分ある。
中島はレースを重ねて走りを研ぎ澄ましていくタイプ。5月3日の静岡国際が45秒46、同6日の木南記念が45秒39、同21日のゴールデングランプリが45秒31と毎試合少しずつタイムを短縮していた。そして、課題はありつつも「過去最高の走りができた」という日本選手権で45秒15と、0.16秒の更新になった。
まだ決まったわけではないが、6月末~7月のヨーロッパの試合に出場する方針だ。
「それまで1か月くらい(腰を落ち着けて練習できる)強化期間があるので、スピードもスタミナももう1回作り直していける」
そうして臨む海外転戦に、中島は心躍らせている様子だった。
「海外転戦を夢見ていました。やっとここまで来られたな、っていう思いがあります。世界レベルの試合で僕がどれくらい通用するか。そこを試すのが本当に楽しみなんです」
日本選手権では「自分が今できる走りは理想に近い形で」できた。型を大きく崩す必要はない。微調整ができれば記録は大きく伸びそうだ。ヨーロッパから、日本人2人目の44秒台、場合によっては32年ぶり日本新の朗報が届くかもしれない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)