田中希実(23、NewBalance)が世界への戦いに自信を深めた。陸上競技の第107回日本選手権が6月1~4日、大阪市ヤンマースタジアム長居で行われた。田中は大会2日目の女子1500mに4分08秒29で、4日目の5000mも15分10秒63で優勝した。両種目とも今季日本最高記録だった。世界陸上ブダペストの標準記録は未突破のため代表内定には至らなかったが、Road to Budapest 23(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)は1500mがエントリー人数56枠で31位、5000mが42枠で20位(6月12日時点)。2種目とも出場資格を得て8月2日以降に代表入りする可能性が高い。日本選手権も世界陸上の戦いを想定しての走りだった。
2種目とも2位選手とは最大差
ラストスパートの強さが際立った。1500mは4連勝、5000mは2年連続3回目の優勝だったが、2位との差は両種目とも過去最大だった。田中希実が2種目に初優勝した2000年以降、2位選手に付けたタイム差は以下の通りである。
【タイム差】
左が1500m、右が5000m
20年:5秒41 1秒46
21年:2秒13 (12秒56)※
22年:3秒82 5秒47
23年:9秒37 11秒09
※田中は3位。優勝者とのタイム差
特に1500mの9秒37差は圧倒的だった。
日本選手権に調子を合わせられたことが要因としては大きいが、ラストの腕の振り方が一段と力強くなっていた。
「昨年の秋から“腕で持っていく”ことは意識するようになっていました。定まらない部分がありましたが、最近それが伴い始めたというか。脚も動かしながら、それに腕を合わせて、脚が止まったら今度は腕で動かしてっていう、腕と脚の連動はでき始めている気がしています」
日本の女子長距離史上最速のスパート力を武器に、田中は世界陸上に挑戦しようとしている。
1500m8位入賞の東京五輪時と同じ雰囲気に
練習でも裏付けがある。
外国勢に快勝したゴールデングランプリ(GGP。5月21日)のレース後には、「(4月末から5月初頭の米国遠征中にトレーニングを行った)フラッグスタッフ(米国の高地練習拠点)あたりから合格点の練習を積めてきて、ここで勝てなかったら勝てない、くらいの気持ちで臨むことができました」と話していた。
GGPと日本選手権前には、岐阜県の高地練習拠点である御嶽で短期合宿を行った。「私の場合は精神面がすごく大きく(練習内容や結果を)左右するんです」と田中。御嶽は市民ランナーで北海道マラソンに2回優勝した母親の千洋さんのトレーニングで、田中も幼少時から幾度となく訪れている場所だ。
「幼い頃から親しんできた場所で、集中してトレーニングができたところが一番大きかったと思っています。GGP直前も御嶽で合宿して、(1500mの)ラスト1周をしっかり上げることができました。もっと上を目指したい、もっとチャレンジしたい気持ちで2回目の御嶽合宿に臨んで、それが日本選手権の走りにつながりました。練習はすごく(高い設定タイムで)できたというより、1回も(設定を大きく)外さないでできたことが大きかったと思います」
日本選手権5000mのラスト1000mは2分48秒前後。1500mで8位に入賞した21年東京五輪の5000m予選、自己記録の14分58秒60を出した昨年の全日本実業団陸上とほぼ同じだった。田中健智コーチも「(トレーニングや田中のメンタル面が)東京五輪前と同じ雰囲気になってきた」と見ている。