総延長8000キロにもなる石垣

フランスの有名なワイン産地、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュのブドウ畑の景観はみんな世界遺産。他にもブドウ畑の世界遺産はあるのですが、映像的にインパクトがあるのがポルトガルの「ピコ島のブドウ畑の景観」です。

ポルトガル「ピコ島のブドウ畑の景観」
ポルトガル「ピコ島のブドウ畑の景観」

ピコ島は大西洋に浮かぶ火山島。強い海風が吹く沿岸でブドウを栽培するため、溶岩を積み上げて実に総延長8000キロにもなる石垣を築いています。空から撮影すると、まるであみだくじ。

あみだくじのような石垣

ここの石垣は強風だけではなく、海風が含む塩分からもブドウを守る役割をもっています。フィリピンのコルディレラでは石垣は階段状の棚田を維持するためのものでしたが、ピコ島では防風という役割をもっているのです。

最大斜度72度 「プロセッコの丘」

またコルディレラの棚田と同じように、急斜面をブドウ畑に変えてしまったのが、イタリアの世界遺産「プロセッコの丘」です。

プロセッコはフランスのシャンパン、スペインのカヴァと並ぶ世界三大スパークリングワインのひとつ。イタリア・アルプスの麓の丘陵地帯、最大で斜度72度もある斜面が広大なブドウ畑になっています。

斜面の多くが南向きで日当たりが良く、一方で北側のアルプスから冷たい風が吹き下ろすため、昼夜の寒暖差が生まれ、それがブドウの成熟を高める・・・というブドウ栽培に適した環境が、急斜面の畑を生みました。

一方、大量の水を必要とするのが米作り。コルディレラでは、山の森が蓄えた水を上から下に流していくことが出来るという利点から、急斜面に沿って階段状の水田が作られました。一見、同じような急斜面に作られた田畑の世界遺産ですが、アジアでは水の流れ、ヨーロッパでは寒暖差、まったく違うものを求めて作られたものです。

アジアとヨーロッパ。それぞれの生きる環境と必要に合わせて、人は遙か昔から自然に手を加え、絶景を作り上げてきました。そしてお米とブドウ、それぞれの作物が生む銘酒は、いまや洋の東西を越えて愛飲されるようになったのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太