今年3月に、日本酒「獺祭」のメーカーがアメリカ・ニューヨークに初めて酒蔵を作ったことがニュースになりました。海外での日本酒人気の高さが追い風になっているようです。一方で、日本はもちろん中国でもワイン造りが盛んです。特に中国のワイン生産量はいまや世界第10位とされ、ワイン大国のひとつとなっています。洋の東西を問わず人気の日本酒とワイン。両方とも醸造酒ですが、もうひとつ共通点があります。ご存じのように日本酒の原料は米、ワインの原料はブドウですが、米作りもブドウ栽培も共に世界遺産を生み出しているのです。

とにかく広い世界最大の棚田

世界遺産には「人が作った絶景」というジャンルがあります。自然環境を利用して人間が作り上げた景観を持つ文化遺産で、米作りが生んだ代表は階段状に作られた水田=棚田です。世界遺産になっているものはいくつかあるのですが、とにかく広い世界最大の棚田が中国の「紅河ハニ棚田」です。雲南省紅河流域の山岳少数民族ハニの人々が千二百年かけて作ったもので、実に3000段もあります。

ハニ棚田

番組でドローンを使って空から撮影したところ、見渡す限りの山々がすべて棚田。びっくりするようなスケールで、まさに人が作った絶景でした。収穫期で一面が黄金色になった棚田も見ものですが、一番美しいのが収穫の終わった秋の早朝。ここでは一年中田んぼに水をはっているため、昇ってきた朝日が水鏡に映り、朝霧の中で棚田が銀色に輝くという幻想的な映像が撮影できました。

ハニ棚田 秋の早朝の朝霧

あぜ道の総延長は実に2万キロ、「天国への階段」と呼ばれる棚田

フィリピン、ルソン島のコルディレラ山脈にある「コルディレラの棚田」も世界遺産です。こちらの特徴は急傾斜に築かれていること。コルディレラの棚田は最大斜度70度という絶壁に近いような斜面にも作られていて、まるで天に向かって水田が続いていくように見えることから「天国への階段」と呼ばれます。

コルディレラ 急斜面の棚田

やはり山岳少数民族のイフガオが作ったもので、あぜ道の総延長は実に2万キロ、地球半周分にもなります。コルディレラでは棚田と棚田の間に石垣を築いて階段状にしています。麓との高低差1000メートルを埋め尽くす棚田と石垣は、数百年かけて作られたものです。この世界遺産を撮影して面白いのは水の流れです。

棚田自体が水路に
棚田自体が水路に

山の森の渓流が田んぼに引き込まれ、それが上の田んぼから下の田んぼへ順々に流れ落ちていく・・・その様子が実に見事で、急斜面に作られた棚田ならではの映像でした。このように森は雨水を蓄え水源となり、棚田はそれ自体が水路の役割を果たしているのです。

アジアが「米作り」なら、ヨーロッパでは「ブドウ栽培」によって「人がつくった絶景」の世界遺産がいろいろ生まれています。