「届けたいと思った人たちに、届けたかった感情が届いた」

山本キャスター:
「怪物」はカンヌ国際映画祭で、クィア・パルム賞を受賞しました。このクィアというのは、“性のあり方について特定の枠に属さない人”という意味なんですね。LGBTやクィアを扱った映画に与えられる賞です。日本映画の受賞は初めてです。審査員長を務めた、ジョン・キャメロン・ミッチェル氏はこのように話しています。
『「男の子」として期待される姿に適合できない2人の子どもの物語は、クィアな人たち、そして型にはめられることに馴染めず、また馴染むことを拒否する人たちにとって、力強い慰めになることでしょう』
これは映画を見た人間からするとその通りだなと、私自身もすごく共感をしたんですけれども、是枝監督はこの言葉を聞いたときどのように感じられましたか?
是枝監督:
最初に届いたメールは、もう少しシンプルな文面だったんですけれども、「あ、届いたな」と。自分が届けたいと思った人たちに届けたかった感情というのは、まさにこういうことだったのでとても嬉しかったです。
是枝監督が考える「メディアの役割」

小川キャスター:
脚本家の坂元裕二さんも、たった1人の孤独な人のために書いたとおっしゃっていましたけれども、わからないものを枠にはめることで安心してしまう心理ってあると思いますし、一つの物事を一面だけ切り取って受け止めてしまう、単純化してしまうところっていうのはあると思います。そうしたところの是非にも切り込んでいた作品なのかなとも思いますし、その一つの具現化として、メディアの報道の描写があると思うんですが、是枝さんは元々ドキュメンタリーなどを撮られていて、放送人でもいらっしゃった中で、今のメディアの報道のあり方、伝え方に何かお感じになるものはありますか。
是枝監督:
今回の映画の中に直接的な例えば番組や報道が出てくるわけではないんですけれども、やはり噂が広がって、それが人を追い詰めていってしまうっていう空気を作っていきますよね。
やっぱり今のメディアが「この人を叩いていい」となると、全員で叩く、本来はその事件とか事故とか起きたときにそれがどういう社会的な背景があるかってのを考えていくのが、報道の役割だと思うんですけども。社会的な制裁をメディアが一緒になって加えていくっていう状況が、ちょっと一般的になってしまったかなというのが見ていて気になるところではあります。
小川キャスター:
是枝さんは今後テレビに戻られることはありますか?
是枝監督:
放送は僕を育ててくれた場所なので、今は直接番組を作ってませんけれども、今でも放送人だという自覚は実はあるんですね。なので、やれるチャンスがあるのであれば、関わりたいなと思っている一つです。
小川キャスター:
そうしたことがあったときに、取り上げたいニュースというのは何かありますか。

是枝監督:
今起きてることをとにかく報道することで精いっぱいになってると思うんですけども、ちょっと前のことを振り返って、縦軸で追いかけてくれる番組というのがなかなかないですよね。最近でいうと総務省の行政文書、政治と放送の距離感というのがどういうふうに危ぶまれてるのかっていうことはすごく気にはなってるんですね。特にTBSは番組を名指しされて、攻撃されたわけですから、そのことはやはり縦軸できちんと検証して追いかけて報じる責任があると思っています。それがやっぱりこの局の信頼性というのを作っていくと思うので、そこはきちんとやってほしい。僕が問われたのに、返しちゃいましたけど…
小川キャスター:
今、ゴクリと唾を飲み込んでしまいました。今の言葉、しかと受け止めます。ありがとうございました。