3人全員が執行ボタンを押さない“異常事態”

死刑執行では誰が押したボタンで踏み板が外れたのか、特定できないように3つある。しかし、何と3人全員がボタンを押さない“異常事態”が発生したのだ。

踏み板はボタンを押してのみ外れるとされてきた。しかし、床にある箱の中に10センチほどの突起が隠されている事が取材で明らかになった。突起に1メートルの鉄製の棒を装着してレバーとし、踏み板を外す仕組みだ。

ボタン担当の3人以外に待機していた責任者が、このレバーを引き辛うじて執行したと言う。職務とはいえ、死刑に対する現場職員の“戸惑い”を象徴する事件だった。

関係者に誰も3人を咎める者は居なかったという。ボタン担当が別の3人に変わっても同様の事件は何度か起きていた。死刑執行の密室で起こる出来事は殆ど外部に漏れては来ない。

「紙一重です」辛うじて“死刑を免れた男達”

辛うじて“死刑を免れた男達”は、今どの様な心境でいるのだろうか。岡山市の中心地から車で30分、彼らは山あいにある岡山刑務所に収容されている。

受刑者600人は全員初犯で、ほとんどが人の命を奪った“生命犯”。そのうち半数は死刑に次ぐ重罰、無期懲役囚だ。

“生きて社会に帰る”。1日30分の運動時間に無期懲役囚達の執念が弾ける。筋肉質の体は長い刑期を象徴している。肥満体はまず見かけない。

刑法改正(2004年)で有期刑の最高が30年に引き上げられ、無期刑は自動的に最低30年以上服役しないと仮釈放の対象にならなくなった。

70代後半・殺人 無期懲役・服役37年
「ここに来たときは15年で出てたが、新法ができてからどうにもなりません」

60代・強盗殺人 無期懲役・服役36年
「最近は早くて32年、長い人は40年を超えている」

50代・殺人 無期懲役・服役23年
「最近の無期懲役囚の仮釈放の審査結果を見ると、服役年数61年、62年、65年、全部却下ですよね。だから厳しい現実は自分も知っています」

高齢化は急速に進み“獄死”も増えた。85歳の男性。殺人罪で35年服役しているが、かなり認知症が進んでいた。介護するのも無期懲役囚。“老々介護”を “無期無期(ムキムキ)介護”だと揶揄する者もいる。

85歳・殺人罪・35年服役
「自分の事は何にも覚えてません」

彼はこの後、仮釈放されたが、1週間後に死亡した。

号令
「食事始め!」

死刑執行のニュースは、塀の中のテレビにも容赦なく飛び込んでくる。死刑を免れた男達が第一報を知るのは工場での食事中だ。

記者
「死刑とすれすれですよね?」

60代・強盗殺人 無期懲役・服役41年
「そうですね。紙一重です」

40代・殺人 無期懲役・服役23年
「未成年でなかったら、死刑だったのかとか色々考えます」

70代・強盗殺人 無期懲役・服役22年
「苦しいですね。見て見ないふりをします」