観光業や農業など人手不足に悩む多くの場所で、いま「旅人」が貴重な戦力になっています。「お手伝い」と「旅」を合わせたその名も「おてつたび」。地域が抱える課題を解決する救世主のようなサービスで、静岡県内でも需要が高まっています。

<酒井郁乃さん>
「イチゴなんですけど、このように引っ張ってもうまくとれない場合があるので、1回折ってから引っぱっていただければ」

イチゴの摘み取りが楽しめる浜松市中区の「むらちゃん農園」です。来園者に品種の特徴を説明するのは栃木県出身の大学4年生、酒井郁乃さん。ゴールデンウィークの後半、農園が募集した「おてつたび」に東京都から参加しました。

<酒井郁乃さん>
「今までやったことのない新しいことをしたいというのが自分の中にあって、地域の人とより深く交流できる魅力的なサービスだと思って、おてつたびを利用しました」

サービス開始から5年目の「おてつたび」。人手不足に悩む全国の事業者と働き手をつなげるプラットフォームです。

旅館や農家などが短期的な労働力として募集するのは全国からの「旅人」。受け入れる事業者は旅人に「賃金」と「宿泊場所」を提供します。交通費は自己負担ですが、休日に値上がりしやすい宿泊費がかからないので、旅に出る際ネックになる経済的負担を少なくすることができます。

<酒井郁乃さん>
「パフェご用意してもいいですか?パフェ2つお願いします」

<むらちゃん農園 村上孝一代表>
「了解しました。ありがとうございます」

併設するカフェの営業にも力を入れる「むらちゃん農園」。家族とパートで園を営んでいますが、繁忙期に従業員の休みを確保できないことが悩みでした。代表の村上さんはこれまでに7人の旅人を受け入れ、大きな助けになったといいます。

<むらちゃん農園 村上孝一代表>
「(メリットは)短期で募集ができる。うちみたいな小さな農園で特に週末だけ人を募集するのはかなり大変」

初めて浜松に来た酒井さん。空き時間に見頃を迎えたバラ園や浜松餃子など、浜松の旅をたっぷりと楽しみました。

<酒井郁乃さん>
「すごい充実した3日間。お金には代えられない貴重な体験だったり、時間をいただいたと思っています」

過疎化が進む地域でも、おてつたびへの期待感が高まっています。

<篠原大和記者>
「藤枝市の茶工場です。茶摘みのシーズンに8人の旅人が集まりました」

藤枝市の北部、瀬戸谷地区の製茶会社「市之瀬の里」です。5月13日は北海道や兵庫県など全国から集まった旅人が、製茶工場で機械の清掃や資材の片づけを行いました。今回、初めて旅人を募集した市之瀬の里。一時的な労働力としてだけではない旅人への願いがありました。

<市之瀬の里 勝治義男社長>
「いま山間地の茶業は危機的な状況になっています。そういうことを理解してくれる人が1人でも多く増えればと思ってお願いをしました」

藤枝市全体の7割を占める中山間地域では近年、過疎化が急速に進んでいます。こちらの会社で働く16人の従業員もほとんどが70歳以上です。社長の勝治さんは地域のことを深く考えてくれるファンを増やすため、魅力的な部分だけでなく深刻な問題も知ってもらうことが大切だと考えました。

<市之瀬の里 勝治義男社長>
「山のお茶のファンを1人でも増やしたい。できれば移住していただいて、お茶の手伝いをしていただけたら一番うれしい。そういうことも心の隅に思いながらやっています」

おてつたびで働く期間は2日間から長いもので2週間程度ですが、長期のプランは日程が合わず旅人が参加を断念するケースもあるため、サイトでは今後、旅人のニーズに寄り添った募集の形も検討しています。

<おてつたび 飯田瑠己さん>
「参加した人の約6割が継続的にその地域との関係を持ち続けているアンケート結果がある。仕事を一緒にして汗水たらすことで、よりそこの地域の人との絆は深まるのかなと思います。地域の課題と魅力、両方知ることでより愛着が深まると思います」