日銀の総裁に経済学者の植田和男氏が就任して1か月が経ちました。11日には、植田新総裁の下で行われた4月の金融政策決定会合での「主な意見」が公表されました。そこからは、安全運転優先のあまり、政策変更をためらう姿がうかがえます。
2%実現を逸するリスク
その代表が、「『2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスク』より、『拙速な金融緩和の修正によって2%実現の機会を逸してしまうリスク』の方がずっと大きい」という意見でしょう。
公表された「主な意見」は、発言者の名前が伏されているので、誰が発言したのかはわかりませんが、会議全体の空気感を代表する意見に見えます。
植田総裁になって初めてとなった4月の決定会合では、黒田前総裁時代の異次元緩和の修正に向けてどんな議論が行われるかが最大の注目点でした。
しかし、結果は、全員一致で政策の現状維持を決めました。ですから当然と言えば当然ですが、「主な意見」は、現在の金融緩和を継続すべきという意見のオンパレードです。
そこには、3%のインフレが続いて生活水準が切り下がることを心配する意見もなければ、異次元緩和が構造改革を阻害しているという副作用への懸念も出てきません。
政策修正に釘をさす意見が続々
それどころか、今後の政策の方向性を文言で示すフォワードガイダンスについて、その修正が「金利引き上げ容認ととられないように、慎重を期すべき」と意見が表明されたほか、過去の金融政策のレビュー(検証作業)にあたっても、「特定の政策変更を念頭に置かずに、多角的に行うべきだ」などと、政策変更に釘をさす発言が相次ぎました。
極めつけは、異次元緩和修正の初手とされている、イールドカーブ・コントロール(10年金利の固定)についてでした。「イールドカーブの歪みの解消が進んでおり、イールドカーブ・コントロールの運用を見直す必要はない」と、これを全否定する意見まで飛び出しています。
これに対して、「イールドカーブ・コントロールは円滑な金融を阻害している面も大きいと感じており」との意見も出されたものの、この発言者は「今後の債券市場サーベイ結果に注目している」と発言を締めていて、参加者の大勢に従ったことが、強く滲み出ています。