拘束することの意味としては台湾でも議論が出ていますが、「こういったテーマで出版をするとひどい目にあいますよ」という萎縮効果を狙っているのではないか、という話があって、確かにそれはあると思います。ただ、テーマが敏感だから、あるいはテーマが中国としては受け入れられないからといって無実の人を拘束するのは、私は逆効果だと思います。つまり中国の外にいる人からすると、これは常識的な、客観的な学術研究の出版であり、中国に対して何か策動するために出版したのでないことは明らかですよね。
まじめに学術出版を手がけてこられた編集者を、中国に対して敵対的なことをした人であるかのように扱って、拘束するのであれば、中国の外に住む我々からすると、中国は本当にひどい国なんだな、大国としてあるべき鷹揚さは全くないんだなという、そういう気持ちになりますよね。つまり、研究者や出版に携わる人たちに対して、中国政府のストーリーと異なるものは容赦しないというメッセージであるとすれば、それは萎縮効果ももちろんあるけれど、一方的な話ですから、人心の一層の中国離れにつながるのではないかと思います。
Q今願うことは?
拘束されている富察編集長の安全と一刻も早い解放を願っています。中国への渡航の安全の確保や、安全が保証された状態での今後の学術交流などが実現できればいいのにと常日頃願っています。富察編集長が無事に帰ってくることが何より重要です。2月に富察編集長は私の本が出版できたことを本当に喜んでくださって。私もよかったなあと思っていたところだったんですね。
よく、香港の銅鑼湾書店の事件(香港で中国政府に批判的な書籍を販売し、閉店に追い込まれた事件)と似ていると言われますが、今回の件では明らかにフェーズが変わったと思います。台湾というのは中国共産党が実効支配はしていないですよね。当然、出版の自由もあります。そこで学術的な出版を手がけていた人、今まで中国に問題なく渡航できていたような人を拘束する。これは今までより明らかに厳しさが増しているように思います。
確定的なことは言えませんが、中国の取り締まりの範囲、彼らが許容しない範囲が、これまで以上に広がっている。台湾にも範囲を広げて、彼らのディスコース(言説)、ストーリーと違う内容の本を出版している人を狙っていくという風になってきたのかなと、まだはっきりしたことはわかりませんけどそう考えざるを得ません。これは日本にとっても他人事ではないでしょう。
聞き手) JNN北京支局長 立山芽以子