台湾で中国の政治体制に関する書籍を出版してきた出版社の編集長が中国当局に「国家の安全に危害を与える活動に従事した」という疑いで拘束されました。
この出版社で本を出し、編集長とも交流があった法政大学の熊倉潤教授に、今回の拘束の意味について聞きました。

Q今回拘束された富察(ふ・さつ)(本名・李延賀(り・えんが))編集長の「八旗文化」出版社というのはどのような出版社なのでしょう?
2009年に台湾にできた出版社です。特に中国の周辺地域、旧満州からモンゴル、新疆、チベット地域の歴史や政治に関する書籍で定評のある出版社ですね。台湾の「読書共和国」というグループの傘下に入っていて、規模は小さいですが、中国の周辺地域研究の分野では、世界的にも有名な出版社として注目されています。
去年6月に日本で出版された私の「新疆ウイグル自治区」も今年2月に「八旗文化」から繁体字中国語版が出版されています。今回拘束された富察編集長が快諾してくださって出版できる運びになりました。
Q富察編集長はどのような方ですか?
お人柄はとても温厚で実直な方ですね。編集長としても大変芯のある、中国の周辺地域についての出版に使命感を持っている立派な方だと思います。世界中どこでもそうでしょうが、学術書は本当に採算が取れない、売れない。その中で使命感を持って、売れないかもしれない学術書を出版に導いてくださる、本当に立派な編集者です。
Q今回、中国に行くにあたって、富察編集長は不安のようなものはなかったのですか?
もちろん内心いつもあったと思いますが、私にはそういうそぶりは見せていなかったですね。以前から中国に何度も渡航していて、前回も大丈夫だったので今回も大丈夫だろうという見込みがあったのではないかと思いますが、これ以上はわかりません。
Q今回の富察編集長の拘束についてどう思いますか?
本当に気の毒としか言いようがないですし、もしかして私の本を含め、彼が携わったいろいろな、中国では敏感とされているテーマの本が「あだ」となってしまったかもしれないと思うと、本当に身を切られるような思いがしております。
もう一点、中国当局が彼を拘束するという意味がどこにあるのかも考えました。