■「検捜完剥」法案 韓国国会で強行採決 

尹錫悦氏の大統領就任を1週間後に控えた5月3日、韓国国会で「刑事訴訟法改正案」が可決された。7日までの任期の文在寅大統領を支えてきた革新系与党「共に民主党」が数にものを言わせ、強行採決に踏み切った。日本にも同じ名称の法律があるが、その中身は大きく異なる。

実は与党は4月30日、同じように採決を強行して「検察庁法」を改正している。この2つの法改正について韓国メディアや野党は「検捜完剥」と呼んでいる。全く馴染みのない四字熟語は「検察の捜査権を完全に“剥”(はく)奪する」という意味の造語だ。
法案採決時の韓国国会本会議(5月3日)
一連の法改正で、検察が持っていた6大犯罪(腐敗=汚職、経済事件、公職者、選挙違反、防衛産業、大型惨事=重大事故)に関する捜査権は大幅に縮小され、主に「腐敗、経済事件」に限定されることになる。革新系の文在寅政権から保守系の尹錫悦政権へと代わろうとする直前、与党側は急ピッチで検察の力を削ごうとしていたのだった。

■文在寅大統領“検察改革”への特別な思い 

韓国の検察は強大な力を持つことで知られる。捜査権と起訴権をほぼ独占し、高い地位にある人物にも容赦なく捜査のメスを入れてきた。政権が変わる度、前の大統領が“犯罪者”に転落する様子は日本でもよく報じられている。権力の絶頂にいた李明博氏や朴槿恵氏がカメラの前にやつれた様子で姿を現したのは記憶に新しい。
検察に出頭した李明博氏(2018年)と朴槿恵氏(2017年)
一方で、検察の政治的影響力の大きさも批判の対象となっていた。実際、私たちがソウルの街中で道行く人に話を聞くと「検察は今まであり得ないことを行ってきた」「権力を濫(らん)用していた部分がなくはない」という意見もあった。検察が市民から全面的な信頼を得ているとは言えないようだ。
盧武鉉氏は検察の事情聴取後に命を絶った

また与党にとって耐え難い記憶となっているのは、廬武鉉元大統領の死だ。廬元大統領は、不正資金疑惑について検察の事情聴取を受けた後、自ら死を選んだ。その側近だった文在寅氏は検察改革に特別な思いを持っていると言われている。実際に文政権は、当時法相だった曺国氏のスキャンダルに見舞われながらも、政府高官の不正を捜査する新機関「高位公職者犯罪捜査処」の創設に漕ぎ着けた。

検察の権限縮小という側面とともに、検事や裁判官らも捜査対象となることから“けん制”の意味合いもあると指摘される。ただ、2022年3月の大統領選で与党候補が敗北したことで一気に焦りが目立ち始めた。