■次期大統領は元検事総長の尹錫悦氏 野党は危機感

与党の候補を下した保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦氏は、他ならぬ元検事。前大統領だった朴槿恵氏の不正の捜査を指揮し、文在寅政権下で検察トップ・検事総長に上り詰めた人物だ。ただ、尹氏は検察改革などをめぐり文政権と対立し、検事総長を辞職したという経緯がある。

与党からすれば、その尹氏が大統領になるということは検察改革実現の絶対的危機だ。このため政権交代を目前に控えた4月、この「検捜完剥」法案を成立させようと、過半数を超える議席を持ち圧倒的に有利な国会で勝負に出たのだった。一方で野党やメディアは、その先にある与党の真の目的について、こう指摘してきた。“文在寅大統領の保護”。
■疑惑燻る中の「文在寅保護法」、検察の主要幹部“一斉辞表”で抗議も
実は、文政権をめぐっては任期中に「蔚山市長選への介入疑惑」や「月城原発1号機の経済性評価ねつ造疑惑」など複数の疑惑が浮上していた。また、与党候補として尹氏と事実上の一騎打ちを演じた李在明氏にも、城南市長時代に主導した宅地開発で側近が巨額の利益を得たのではないかという疑惑が取り沙汰されている。
こうしたことから、検察から捜査権の多くを取り上げる形となる与党の法改正の動きを、野党は政権への捜査を防ぐための「文在寅保護法」だと批判し、保守系メディアは「巨大与党の暴走」などと非難を浴びせてきた。
どれほど批判が高まろうとも、与党は法案成立に邁進し続ける。国会議長が仲裁に入り、与党と最大野党の間で合意案が一時成立。検察に「腐敗」「経済事件」に関する捜査権を当面残し、「韓国版FBI」と呼ばれる「重大犯罪捜査庁」を創設し、その後に「6大犯罪」に関する捜査権をここに集約するという方向も打ち出された。とはいえ、検察の捜査権は最終的にほぼ全廃されることになることに変わりはない。

当事者である検察側は猛反発し、金浯洙検事総長は2度も辞表を提出した。ナンバー2の次長検事や韓国国内に6つある高等検察庁のトップ全員もこれに続き、検察の主要幹部が一斉に辞表を提出する前代未聞の事態となった。各界の強い反発を見て、慌てた最大野党が仲裁案の合意を翻そうとするやいなや、与党はなりふり構わず手続きを一層加速させる。審議を止めないため委員会のメンバー構成に様々な調整を加えるなどの異例の国会戦術も見られ、保守系だけでなく革新系メディアからも批判された。それでも結局、力で押し切り法案を通過させた。

その数時間後、文大統領の任期最後の閣議が開かれた。最後の最後に、大統領が法案に対する拒否権を行使するかどうかに注目が集まったが、何も起きなかった。改正法は尹錫悦政権の発足後、今年9月の施行だ。