■「武装蜂起なんてしたくなかった」こぼれた本音

クーデター前はどんな仕事をしていたのか、という問いへの答えは、戦闘とは程遠いものだった。
「NPOから資金の提供を受けて図書館を運営していました。本を読むのが好きなんです。その図書館では貧しい子供たちに勉強を教えていました。」
男性(32)は、同じ志を持つ若者たちで団体を作り教育支援に取り組んでいたという。華奢な体つきからは、銃よりも本や楽器が似合うと感じた。しかし目だけは、強い覚悟と同時に悲しみを湛えた不思議な光を放っていた。今の彼は「戦士」なのだ。
「図書館の仕事をしていた時、まさか自分が武器を持って戦うなんて想像もしていませんでした。殺し合いに参加するというのはとても辛い決断でした。本当は武装蜂起なんてしたくなかったんです」
好戦的な若者たちが、怒りに身を任せて武器を取ったのではない。彼の言葉から、武力行使以外の方法を見いだせず、苦渋の決断の末、立ち上がった悲しい現実が浮かび上がった。
■「民主主義は宝物、命をかけても手に入れる」

武器を手に戦う選択をした以上、死と向き合わなくてはならない。2021年12月から激化した『KNU=カレン民族同盟』支配地域での戦闘では、軍と民主派側双方に多くの死者が出ている。彼らが覚悟のうえで戦闘に参加していることは頭では理解している。それでも聞かずにはいられなかった。
ーー怖くはないのですか
「何度も私の目の前で仲間が銃弾に倒れました。私もいつ命を落とすかわかりません。でも戦いをやめるわけにはいきません。『民主主義』は宝物のようなもので、簡単に手に入れることはできないのだと考えています。それは、ミャンマーだけでなく、民主主義を手に入れた世界中の国も、多くの犠牲を伴って初めて民主国家になれたはずです。我々も命をかけて民主主義を勝ち取ります。仲間たちの死を決して無駄にしてはならないのです」
彼の左手に結婚指輪が見えた。妻と双子の娘は、安全な地域に避難させている。簡単に会うことはできないのだという。軍事クーデターが破壊したのは、彼のような市民一人一人の普通の暮らしだったのだと、改めて悔しさがこみ上げる。そして
自分たちの幸せな未来が理不尽に奪われたから必死に取り戻そうとしている彼らに「軍に武力で立ち向かうなんて無謀だ」「ほかの方法を取るべきだった」、そう批判する資格は私にはない。今もそう感じている。