■「長引けば長引くほどウクライナが有利になる」
オランダの軍事情報サイト「oryx」が5月2日に発表した数字によると、ロシア軍の兵器の損失は3321、ウクライナ軍は957。これはミサイルや車両、戦車などを区別せずに損失を「1」と数えた数字の総数だ。また、ウクライナ軍によるとロシア軍の死者数については2万3500人、喪失した戦車は1026台に上る(1日発表)という。
一方、ウクライナの戦死者については、ロシア国防省が2万3367人と発表。戦車の被害は145両(oryx)だというが、いずれもロシアの被害が大きい。
防衛研究所防衛政策研究室 高橋室長
「戦争では攻めている側(ロシア)の損害が大きいのは普通だ。とりわけロシア側の作戦技量が今回は高くなく、かつウクライナ側は2014年から待ち受けていた戦場であることを考えると、こういうことは起こってもおかしくはない。ただウクライナも戦車はもともと現役850両なので、なかなか厳しい環境ではある。だからこそポーランドが提供した200両というのはかなり大きな意味を持ったと思う」
兵器の損失が拡大するなか、ロシアを悩ませているのが戦力の補充だ。既に米国とEUは半導体や工作機械のロシアへの輸出を停止している。これは兵器の製造に欠かせないもので、ロシア国内での生産を難しくさせている。また中国もドローンの最大手「DJI」がロシアへの輸出を停止している。
一方のウクライナには西側諸国から兵器の提供が続いている。アメリカはこれまで37億ドルの軍事支援をしていたが、4月末、更に204億ドルの軍事支援を表明した。このほか、ポーランドが戦車200両を提供するなど、30か国以上が50億ドル以上の軍事支援を約束したという。こうした点を踏まえ、渡部氏は「この戦争は長引けば長引くほどウクライナに有利になる」という。
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部氏
「西側が実施しているロシアへの経済制裁、これが一番効くのは実は軍事産業だ。ロシアの最新の戦車にアルマータというのがあるが、2014年には2000両ぐらい量産する予定だった。ところが2014年に西側から受けた経済制裁によって部品が入らない。今回の戦争でも軍事専門家が注目してみているが、アルマータはまったく出てこない。経済制裁は戦争が長引けば長引くほど軍事産業に非常に効く。特に半導体が入らないから、ミサイルさえ作れなくなる可能性もある。この戦いは長引けば長引くほど圧倒的にウクライナが有利になる」
■核使用はあるのか…「それを防ぐ方法はある」
4月28日、イギリスのウォレス国防相は「プーチン大統領はこれまで使ってきた『特別軍事作戦』という言い方をやめ、『戦争だ』と言い換えるかもしれない」と語った。プーチン氏の思惑は…
防衛研究所防衛政策研究室 高橋室長
「今、ロシアは第二次攻勢をかけているが、これが成功しても失敗してもロシアには第三次攻勢をかける力は残ってない。ドンバス決戦もどうやらロシアが決定的に勝てる状況にはなさそうだ。となれば、第三次攻勢をかけるにしても、或いはウクライナ側の反抗に備えるにしても、更なる資源の動員は必要で、そのために『戦争状態』ということで国家総動員体制に向けていくということではないか」
では、国家総動員体制となれば、形勢は一気に逆転するのだろうか?
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部氏
「それは難しいと思う。戦い慣れた連中ではなく、まったく訓練を受けていない人がたくさん増えても即戦力にはならない。でもこうなったら世界はめちゃくちゃになる。ロシアで総動員がかかれば、アメリカなどの民主主義陣営も徹底的にウクライナに支援をすることになる。その額はものすごく大きくなる」
プーチン氏が追い詰められた場合の懸念は核兵器だ。プーチン氏は先月27日「(外部からの干渉が脅威となれば)電撃的な対抗措置を取る。ロシアは他国にはない兵器を保有している。必要なら使う」と発言している。
この点、プーチン大統領による核の使用を食い止めることは出来ると、高橋氏は言う。
防衛研究所防衛政策研究室 高橋室長
「核兵器の使用は最高指導者の決断にかかっていますから、その段階での人格、能力、責任力、すべてが問われて決める話になります。逆に言えばそれを防ぐ方法はあって、ロシアが恐れていることはNATOの介入、アメリカの介入ですから、核兵器や化学兵器が使われることになれば確実にアメリカが介入するだろうとロシアが信じれば、その使用を防ぐことが出来る。そのための努力をアメリカは今すべてやる、そうすれば未来は変えられるんです。それがアメリカに今必要なことです」
(BS-TBS『報道1930』 5月2日放送より)