ロシアが誇る「対独戦勝記念日」。この日までに戦果を挙げて、プーチン大統領は勝利宣言をするものと当初は見られていた。しかし、“勝利”は程遠いのが現状だ。ロシアは何故ここまで苦戦をしているのだろうか。その理由を探った。
■主力部隊「BTG」に潜む…“致命的な欠陥”
ロシア軍制服組のトップであるゲラシモフ参謀総長が、ハリコフ州のイジュームに入るなど、異例のテコ入れぶりを見せているウクライナ東部の攻防。しかし、ロシア軍はここでも苦戦を強いられていると伝えられる。その理由の1つは、侵攻の主力部隊「大隊戦術群=BTG」にある致命的な欠点だと、元陸上自衛隊東部方面隊のトップ・渡部氏は指摘する。
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「部隊の中の歩兵の少なさが致命的な欠陥。ロシアBTGは1000名の中で歩兵が200名しかいない。これは圧倒的に少ない。はっきりと自衛隊の人数を言うことはできないんですが、比較のために例えで言うと、陸上自衛隊の連隊戦闘団という組織で言えば、1500名中1000名くらいが歩兵。この歩兵の人数が必要で、これで戦うことが出来るんです」
BTGとは何かー。装甲車40両と歩兵を先頭に、戦車10両、次に地雷撤去をする工兵や通信兵医療兵、そして榴弾砲と続く部隊で、ロシアに92個あり、1000人規模だという。師団や旅団より小規模で機動的という特徴がある。第二次チェチェン紛争(1999年~2009年)の際、テロやゲリラ戦に対応できる戦力として誕生。その後、2014年のウクライナ紛争の際にはウクライナ軍を壊滅させたとして評価され、2016年にロシア軍の主力部隊となった。
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部氏
「歩兵は戦車の前で敵を捜索したり、地雷原や橋が壊されているかどうかを捜索したりすることが出来る。BTGの場合は200人しかいないので、攻撃する部隊の左右と後ろの安全を守ることも出来ない。戦闘初期にキエフの近くの道路でBTGの装甲車や戦車が長い列を作って並んでしまい、ウクライナ軍の攻撃を受けた。本来なら歩兵がしっかりと偵察をして、敵がいたらそれを掃討して前進しなければいけない」
そして、このBTGには欠陥がもう1つあると、渡部氏は言う。
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部氏
「BTGは指揮統制がものすごく難しい。戦車の火力、後ろにいる長距離の榴弾砲の火力、これを密接に連携させてこその部隊。戦車を機動しながら、火力を機動に合わせて効果的に連携させなければならない。部隊が大きければ、全体をコントロールするスタッフも増えるのでそれも難しくはないが、このBTGの単位で全てのものを連携させるのは難しい。今回の戦いを見ていると、訓練もあまりやれていないのではないか」
■対戦車戦で勝つには…「私ならまずは障害を作る」
ウクライナ東部は平原地帯だ。東部戦線は戦車と戦車が激しく撃ち合う「大戦車戦」になると言われてきた。大平原でロシア軍を食い止めるにはどんな作戦が有効なのだろうか。渡部氏は「機動・火力・障害の連携」に着目した。
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部氏
「私が戦うならまず“障害”を作る。そうして戦車が自由に動ける場所を限定的にしてある場所に引き入れ、その前に地雷原や対戦車壕を作って戦車を止める。そこに対戦車ミサイルや榴弾砲で射撃、ウクライナ軍の戦車を横から機動して反撃する。つまり、障害で集め、停まったところに火力を発揮し、最後は両側からウクライナ軍が機動戦力を持ってそれを攻撃する」
実際、ウクライナ側は場所の詳細は明かしていないが、東部で大規模な戦車濠を掘削している映像を公開している。
一方で、ロシア軍には既に大戦車戦を展開するだけの戦車がないのではないかという指摘もある。
防衛研究所防衛政策研究室 高橋杉雄室長
「ウクライナ側は占領された地帯を取り返しに行くので、ある程度、打撃を与えた段階で反撃はする。クルスク大戦車戦(第二次大戦でソ連とドイツが約6000両の戦車を投入した戦い)のようなイメージの戦車戦にはならないが、戦車同士の交戦は起こる。ロシア軍の戦車が3000両あり、そのうちの1000が失われているとすれば、残りは2000。予備は1万あるといわれているが、すべてをウクライナに送るわけにはいかないので、今後、難しい戦いになるということは言えると思う」