米軍戦闘機F-22が、領空で撃墜した中国の気球。アメリカは、その残骸を回収して調査を続けている。気球が、アメリカの主張通り、中国の偵察気球であるなら、どこから飛ばされ、何を偵察したのか…。そもそも、なぜ気球だったのか…。中国の情報戦略を読み解く。

「もし気球が群れで来たら、本当に頭が痛い」
台湾のシンクタンクに、中国の諜報活動を研究する識者がいる。その人物が言うには、中国は、アメリカの情報を集めるのに効果的な友好国を持たないため、情報収集に苦労している。そこで、監視の目にかかりにくい気球を使う。中国にとっては、苦肉の策なのだという。
台湾・国防安全研究院 王彦麟 博士
「こういった気球を放つ場合、同一モデルのものを同時に大量に、というよりは、まずは、1つ放ってみて、状況を見て、修正を加えて、次の気球を放つ、と分析している。それぞれの気球は、目的地や収集したいものに合わせ、違うモデル番号のものを採用しているかもしれない。発見された気球は、サイズや搭載された電子設備が異なっている可能性がある。(中略)アメリカが公開しているデータや、大気の流れから推測すると、気球は、中国の内モンゴルから放たれたものと思われる」
確かに、中国の内モンゴル自治区には、気球の研究施設がある。しかし、複数の場所もあり、明海大学の小谷哲男 教授は、別の場所から打ち上げたという情報があるという。

明海大学 小谷哲男 教授
「内モンゴルに、気球を上げる場所は知られているので、そこからと思うこともあるかもしれないが、2月4日に撃ち落とされた気球は、海南島から打ち上げられ、アメリカは、1週間その行方を追跡していたということです」
いずれにしても気球について、中国には、複数の研究施設があるようで、人民解放軍も気球の軍事利用に積極的だ。2021年、軍の機関紙『解放軍報』には、「気球は将来、深海に潜む潜水艦のような恐ろしい暗殺者になるだろう」と書かれ、さらに、去年も気球について、“レーダーに感知されにくい” “成層圏に到達して防空兵器を回避できる” “開発の春だ”などと言及している。ハイテク兵器の開発が競われる中で、気球は意外と、有効な存在だと、軍備にも明るい佐藤正久 議員も言う。
元外務副大臣 佐藤正久 参議院議員
「非対称戦なんです。中国は、ハイテクなどではアメリカにかなわないので、アメリカや日本が関心を示していなかった、成層圏や深海での開発を進めている。国際法上は、どこが領空なのかははっきりした定義がないんです。高度100キロともいえない。ドローンも各国、成層圏ドローンの開発が進んでいる。実際、成層圏まで戦闘機が飛んで、ミサイルで落とすことは難しい」

撃墜するのが難しいという気球。これが攻撃的なものに変わることはあるのだろうか。
元外務副大臣 佐藤正久 参議院議員
「気球による攻撃はないと思うが、宇宙より近い距離で、電波なり映像なりを収集できる。ローコストで…(中略)気球はポリエステルなどで、レーダー波が反射しにくい。しかも熱源がないので、ミサイルみたいに感知できない。非常にいやらしい存在。それに、安い気球を高価なミサイルで撃ち落とすのは、費用対効果が悪い。もし気球が群れで来たら、本当に頭が痛い」