ウクライナ戦争が膠着状態にある中、ロシアと1300キロに及ぶ国境を接する国フィンランドのNATO加盟が注目されている。“ロシアが怖いからNATOに入らない”とされてきたフィンランドだが、今“ロシアが怖過ぎてNATOに入りたい”という。今回はフィンランドのNATO加盟問題に注目した。
■「フィンランドには脅威が3つある。それは…ロシアとロシアとロシアだ」
『アンノウン・ソルジャー~英雄なき戦場』というフィンランド映画がある。フィンランド史上最も見られた映画の一つだ。その内容は…
第2次世界大戦勃発直後の1939年。ソ連は、フィンランド国内から“レニングラードに砲弾が届く”という理由だけで、国境沿いの土地の割譲を要求。それを断ると、ソ連は国境を攻め込み、3か月で国土の1割を奪いとった。この映画は、奪われた祖国の領土を奪還しようとする兵士たちの実話をもとにした物語だ。
当時、人口約400万人だったフィンランドで約50万人の軍隊が組織された。フィンランドは約9万人の戦死者を出しながらも、一度は領土を取り戻したものの、ドイツと組んだことで戦後は敗戦国として領土を取り上げられ、莫大な賠償金を背負わされた。この映画にウクライナの現状を重ねるフィンランド人は少なくないと地元国営放送の記者はいう。
フィンランド国営放送 ヘイッキ記者
「第2次大戦でロシアがフィンランドに侵攻してきたことを覚えている人もいる。ロシアが何の理由もなくウクライナを攻撃したので、ロシアは何をするかわからない。本当に先が見えなくて本当に不安です。(中略)ロシアがウクライナとの戦争で精いっぱいの今がロシアの恐怖から脱却するチャンスだと思います。アメリカも今が一番NATOの窓が開いていると言っている。窓が、ドアが開いているうちにNATOに入った方がいい…」
筑波大学 東野篤子教授
「ロシアは1度たりとも安全な隣人ではなかった。このままではフィンランドの安全は一切保証されないという思いが、大戦時のロシアとの戦いの記憶と相まって戻ってきた」
東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠専任講師
「映画になった戦争は、フィンランド人にとって民族的トラウマだと思う。15年くらい前、当時のフィンランド国防大臣がアメリカで演説した時、こう言ったんです。『フィンランドには脅威が3つある。それは…ロシアとロシアとロシアだ』それくらいロシアというのはフィンランドにとってもの凄く怖い…」
これまで怖いロシアを刺激しないように、いわばNATO加盟を自粛してきたフィンランドだが、ロシアは気を使っても攻めてくる時は攻めてくる。ウクライナを見て第2次大戦を思い出した。だったら今のうちにNATO入ってしまおうというのがフィンランドの本音だと小泉氏は言う。さらにこう付け加えた。
東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠専任講師
「意地悪い見方をすると、今だったら怒らせたとしても、ロシアは大したことはできないだろうという冷徹な考えをフィンランドは持っているのかも…」
■ロシアと国境を接しているだけでIT人材が入ってこない
ある報道によれば、今年の初めフィンランドの経済的な安全評価は他の北欧諸国同様『低リスク国』と判断されていた。ところがウクライナでの戦争をきっかけに、東南アジアとインドの人々から『フィンランドは大丈夫か』という問い合わせが増えているという。
つまり、ロシアと国境を接し、NATO入りを希望するという2点で、フィンランドはウクライナと似た状況だと判断する人が増えてきているということだ。東野教授は言う…。
筑波大学 東野篤子教授
「東南アジアとインドから来る人というのは、IT技術者です。フィンランドにおいてもまだまだ人材不足の分野ですので、どんどんこういった人たちを招聘したいんですね。フィンランドにとっては完全に“もらい事故”なのは、ロシアと国境を接しているだけで『危ないんじゃないか』と思う人が増えていること。だからNATOなんです。何かあったらNATOが全体として守ってくれるからビジネス環境としてもフィンランドは安心なんですって言わないといけない。フィンランドにとってNATO加盟というのは安全保障だけでなく、今まで良好とみなされてきたビジネスを守るためでもある」