経営は順調なのに後継者がいなくて廃業する事業者が増えています。後継者を探すのに苦労している81歳の職人が直面する現状とその思いを取材しました。またそんな中で後継者探し支援に取り組む金融機関もあります。

この道一筋60年以上…町工場のへら職人

 81歳の古賀光夫さん。大阪府八尾市にある従業員13人の町工場「古賀製作所」の代表で、この道一筋、60年以上のへら職人です。

 回転する厚さ1mmの金属板にへらを押し当てていきます。『へら絞り』という技術です。

 1回、また1回と優しくへらを当てると、中心部分が少しずつ伸び、金属は形を変えていきます。

 (古賀光夫さん)
 「やっぱり何十年やっているから、体が覚えているからできるけど、他の人はできないと思う」

一度も赤字なしでも「後継者おらんかったらたたむしかない…」

 夢の超特急・初代新幹線0系の代名詞「だんご鼻」。この部分の金型はへら絞りで作られたものです。金属を伸ばして加工するへら絞りは、鍋やフライパンなど半円の製品を作る際にも使われています。

 古賀さんの工場で主に製造しているのは照明器具。中でも、土台の部分は1つ1つ手作業で作っています。

 (古賀光夫さん)
 「首の細いところがね、細いところが一番難しい。半分までいったら楽なんやけど、ここ出るまでにみんな破ってしまうね。慣れないことにはできない」

 機械でも金属を加工することができます。しかし、その差は歴然。機械では金属を細く長くすることができません。熟練した職人の技術が美しいフォルムを生み出すのです。

 こうした技術に信頼を寄せる取引先は少なくなく、創業以来50年間、一度も赤字なしで経営はおおむね順調です。しかし、古賀さんは今、経営の大きな岐路に立たされています。工場の後継者である“後継ぎ”がいないのです。

 (古賀光夫さん)
 「後継者おらんかったらどうするか。やっぱりたたむしかないと思う」