厳罰化求める声が上がるも…現在も行われる“寛容”な処遇
事件は世論にも影響し、直後の調査では重大犯罪に対する厳罰化を求めたノルウェー国民が66%に上った。それから12年。ノルウェーの刑務所に変化はあったのか。オスロ近郊にあるベルグ刑務所を訪ねると門が空いていた。

日中は受刑者を含め、誰もが自由に出入りすることができる。寛容な処遇が今も行われているのだ。
ベルグ刑務所 メルケスビーク所長
「受刑者を外の社会に慣れさせる必要があります。なので必要以上の壁は作りません。一番大切なことは自分を管理できるようになることです」


マシーンが取り揃えられたジム、そして充実した図書館もあり、様々なジャンルのDVDやゲームも借りられる。ゲームは「外の社会に近づく意味がある」という。
この刑務所は刑期の残りが1年から3年ほどとなった受刑者が、社会復帰の準備期間として過ごす場所。寛容なノルウェーの刑務所の中でも最も開かれた刑務所だ。

私たちが歩いていると突然、自転車に乗った1人の男性が現われた。
男性は手招きして、私たちを建物に迎え入れた。一見すると刑務官に見えるが、実は受刑者だ。
ーーあなたは何の罪でこの刑務所に入っているのですか?
ケネット・ビンメ受刑者(50)
「殺人です。私は犯罪グループの一員でした」
ビンメ受刑者は殺人を犯し、禁錮17年の刑で収容された。2年前にこの刑務所に移ってきたという。24時間使えるという共用のキッチンには、包丁が並んでいた。
ーー包丁を使うことはあるんですか?
ビンメ受刑者
「ええ。あなたが使うのと同じように使いますよ」
続いて案内してくれたのは自身の個室だ。明るい光が差し込む、6畳ほどのスペース。軟らかいベッドに毛布、備え付けのテレビまである。
ーーこの部屋で落ち込んでいる時に明るくしてくれるものは何ですか?

記者の質問に対して手にもったのは、アダルトDVD。ここではインターネットで外部とアクセスすることはできないが、部屋の内鍵をかけることもでき、プライバシーも保障されている。
罪と向き合うきっかけは“修復的司法” 「新しい一歩を踏み出せた」
殺人を犯したのは11年前。同じ犯罪グループの仲間である被害者が金を返さなかったため、ビンメ受刑者が首を絞めて脅そうとしたところ、死なせてしまったという。
ビンメ受刑者
「金の問題で被害者と決着をつける必要があったのです。私は頭の中で事件を正当化していました」
当初、罪と向き合うことができなかったビンメ受刑者。反省に向かうきっかけになったのは、ノルウェーで取り入れられている「修復的司法」という仕組みだ。

修復的司法とは、加害者と被害者が直接話し合うことで、加害者の更生と被害者の回復を目指す考え方。
ビンメ受刑者は法廷で被害者の娘の父への思いを聞くにつれて、しだいに反省し、罪の重さを痛感するようになっていった。そして、それまで決して口にすることがなかった謝罪の言葉を、初めて娘に伝えることができたという。

ビンメ受刑者
「被害者の娘に裁判所で『ごめんなさい』と謝罪したら抱きしめてくれました。あなたを許しますと」
ビンメ受刑者は被害者の娘が赦してくれたことで、「絶対に再犯をしてはならない」との思いを強くしたという。

ビンメ受刑者
「被害者の娘に『ごめんなさい』と言えたとき、理解してもらえました。そのおかげで新しい一歩を踏み出すことが出来ました」

「修復的司法」の考え方は刑務所でも。自動車整備士の資格を取得するため、刑務所内で技術を学ぶ受刑者。
ノルウェーでは犯罪者に「厳罰」を与えることよりも「社会復帰」させることを重視している。刑務所は加害者を「修復」して、社会に戻すための「リハビリ施設」なのだ。

ベルグ刑務所 メルケスビーク所長
「どんな受刑者でも立ち直るチャンスがあります。罰を与えるだけでなく、受刑者を変える。それが我々の使命です」
刑務所では、受刑者一人一人に対して個人プログラムが組まれている。
ビンメ受刑者は犯罪グループに戻って再犯しないために手に職をつけることを目指し、溶接工の資格を取得。今は、刑務所の外の会社で仕事をしている。