北欧ノルウェーの刑務所は世界一人道的な処遇で知られている。ところが、そのノルウェーで77人が殺害される連続テロ事件が起き、遺族から厳罰化を求める声が相次ぐ事態となった。
いま、ノルウェーの刑務所はどうなっているのか。取材を通して見えてきたのは、加害者と被害者が直接話し合う“修復的司法”という考え方の実践と、“憎悪”への挑戦を続けるノルウェー社会の姿だった。
「警察に殺された方がよかった」77人殺害の連続テロ事件 遺族が吐露した思い

ノルウェーの首都・オスロから約40キロにある無人島・ウトヤ島。12年前、耳を疑うような凶悪な事件が起きた。

逮捕されたのは当時32歳のアンネシュ・ブレイビク受刑者。
2011年7月。ブレイビク受刑者は、オスロの政府庁舎前で爆弾を爆発させ8人を殺害。

その後、ウトヤ島に侵入し、サマーキャンプに参加していたノルウェーの与党・労働党青年部の10代から20代の若者らを次々に銃撃し、1時間半の間に69人を殺害した。

ノルウェーは肌の色や国籍、職業などで差別しない寛容な社会を目指してきた。ブレイビク受刑者は、そんなノルウェーの寛容な移民政策を敵視し、「ヨーロッパをイスラム化から守る」という動機で政府庁舎や労働党の若者を狙ったのだ。

18歳で亡くなったシンネ・ロイネランさんは、人権や男女平等など社会問題に関心をもち、写真家になるのが夢だった。
あの日、ウトヤ島のキャンプに参加していたシンネさん。母親のリスべスさんは事件当日、娘に何度もメッセージを送ったが返信は無かった。

シンネ・ロイネランさんの母・リスベスさん
「娘は3回、頭を正面から撃たれました。最後は死を確認するための1発でした。司法解剖で、過呼吸の痕跡がありました。恐ろしかったという証拠でした」
一時は生きる気力を失ったというリスベスさん。さらに、リスベスさんを苦しめたのはブレイビク受刑者の法廷での振る舞いだ。

裁判ではナチスの敬礼をして入廷し、反省や謝罪の言葉を口にすることはなく、事件を正当化する主張を繰り返した。ノルウェーに死刑や終身刑はなく、最高刑の、禁錮21年が確定した。
実は、ノルウェーの刑務所は世界一人道的な処遇で知られている。ブレイビク受刑者が収容されている刑務所はそれでも高い塀に囲まれ、最も厳しいセキュリティを備えているが、テレビやゲーム機を使え、運動部屋など3つの部屋に出入りすることもできる。
リスベスさん
「事件後、ブレイビク受刑者がもつ様々な権利に苛立ちました。その場で『警察に殺された方がよかった』と私は思いました。それが一番良い解決法で、彼を激しく憎みました」