ポピュリズムの政権運営には限界も
長丁場の特別国会を終えて、高市総理は政権の態勢を立て直し、新たな課題に取り組むことになる。
当面は物価高対策を進めるとともに、27年度予算案編成に向けた作業が始まる。まず、食料品の消費税減税に向けた財源確保が課題となる。
さらに難題なのが、防衛費の増額だ。高市総理は年末の予算案編成に向けて、国家安全保障戦略など安全保障関連の3文書を改定すると表明。アメリカのトランプ大統領が防衛費の対GDP比を現在の2%程度から3.5%程度に増やすよう求めていることなどに合わせて、3文書でも防衛費の増額を明示する考えだ。
その場合、現在は年10兆円程度の防衛費を15兆円以上に増額する必要がある。財源はどうするのか。防衛費という恒久的な支出に対して赤字国債の増発で対応するわけにはいかないから、何らかの増税は避けられない。所得税や法人税などが対象となるが、政府・与党内からも反発は必至だ。
トランプ大統領との「蜜月」をアピールしてきた高市総理としてはアメリカの要求を受け入れざるを得ない。一方で、日本国内で防衛費増額のための増税を求めるのは極めて困難である。財政ポピュリズムでは済まない事態にどう対応するか。高市総理の真価が試される。
11月には中国・深圳でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が予定されている。高市総理の台湾有事発言以降、中国側が日本に対して「新型軍国主義」という批判を強めているなか、APECでの日中首脳会談が実現できるかどうかが焦点となっている。
仮に首脳会談が開催されないようだと、日中の関係悪化はさらに続くとみられ、日本経済への影響も懸念される。対中強硬姿勢で日本国内のナショナリズムを政権への追い風とした高市総理だが、関係改善の道筋をどう描くか、ここでも外交手腕が問われる。
高市総理は、自民党役員の任期切れとなる9月までに内閣改造・党役員人事に着手し、消費税減税や防衛増税が控える秋の臨時国会や年明けの通常国会に向けた態勢を整える。
「初の女性総理」への人気と、財政・外交のポピュリズムで高支持率を維持してきたが、皇室典範の改正などで、高支持率に陰りが出てきた。それでも、消費減税などで人気取り政策を続けるのか。負担増や既得権益の見直しなど国民にとって「苦い薬」も示す方向に転換するのか。高市政権が重い決断を迫られる日は遠くない。
〈執筆者略歴〉
星 浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト・TBSスペシャルコメンテーター
1955年、福島県生まれ。
79年に朝日新聞入社、85年から政治部。総理官邸、自民党、外務省などを担当。ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。
2004~06年、東京大学大学院特任教授。
16年に退社し、TBSへ。「NEWS23」キャスターやコメンテーターを務める。
著書に『自民党幹事長』(筑摩書房)、『官房長官 側近の政治学』『永田町政治の興亡』(いずれも朝日選書)など。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














