対中強硬策は外交ポピュリズム
高市総理は外交面でもポピュリズムの姿勢を見せた。
25年10月の総理大臣就任直後には、アメリカのトランプ大統領を迎え、「日米蜜月」を演出した。神奈川県横須賀市を母港とする米原子力空母「ジョージ・ワシントン」では、演説するトランプ大統領の隣で飛び跳ねてみせた。
アメリカの大統領と「強固な日米同盟」をアピールすることが、日本国内の世論の支持につながることを自民党政治家は熟知している。かつての中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三各総理のレーガン、ブッシュ(子)、トランプ各大統領とのパフォーマンスを思い浮かべれば、納得できるだろう。
一方で、中国との関係は単純ではない。1972年、田中角栄総理が中国との国交正常化に踏み切り、日中関係は急速に進展。日本国内でも「日中友好ブーム」が続き、多くの親中派政治家が活躍した。中国が経済成長を果たして2010年には国内総生産(GDP)で日本に追いつき、追い越すことになる。軍事的台頭も進み、日本国内では「中国脅威論」が強まってきた。安倍晋三政権が15年に集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障法制を成立させたのも、台頭する中国をにらんだものだった。
多くの憲法学者が「違憲」と断じ、国会議事堂周辺では大規模な反対デモが繰り広げられたのにもかかわらず、強行採決された安保法制では、台湾周辺で米軍と中国軍が交戦状態となり、日本の安全保障が脅かされる事態となれば、「存立危機事態」と認定され、自衛隊が出動。中国軍との交戦もあり得ることになる。
その法制に基づき、自衛隊と米軍は台湾周辺で共同演習を重ね、中国軍もこれに対抗する形で大規模な軍事演習を続けてきた。だが、安倍総理以降、菅義偉、岸田文雄、石破茂の歴代総理は台湾有事に対する具体的な対応については言及を避けてきた。「曖昧戦術」である。
台湾有事発言後も事態打開に動かず
そうした状況下で、高市総理の「台湾有事発言」が飛び出した。
2025年11月の衆院予算委員会で、立憲民主党(当時)の岡田克也元外務大臣は、台湾有事と存立危機事態についての高市総理の見解をただした。高市氏は「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と答弁。自衛隊出動の可能性に触れた。歴代総理の見解を踏み出したことは間違いない。
これに対して、中国は強く反発。高市総理の答弁を撤回するよう求めた。さらに、日本への観光旅行自粛や日本人タレントによる中国国内での公演中止などが次々と打ち出された。さらにレアアース(希土類)の対日輸出規制も示唆している。
日本国内では、保守系メディアを中心に高市答弁を支持する動きが強まり、岡田氏の質問を非難するメディアも出てきた。野党が政府の外交・安全保障政策を詳細に追及するのは当然だが、岡田氏に批判の矛先を向けるのは、一部のメディアも「政策論議より中国への反感」というポピュリズムの罠に陥っている表れだろう。
日本の対中関係が悪化する中、高市総理は26年3月、ワシントンを訪れ、トランプ大統領と会談。高市氏はアメリカが同年2月にイラン攻撃に踏み切ったにもかかわらず、「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルド(トランプ大統領)だけだ」と持ち上げた。
しかし、トランプ大統領は同年5月、北京を訪れて習近平国家主席と会談。ロッキード社の航空機やアメリカ産農産物の対中輸出などで合意した。アメリカは自国の利益を優先し、同盟国である日本の頭越しで中国と接近している。
高市総理は台湾有事発言を撤回することはなく、中国に対して理解を求めるような動きもみせていない。むしろ、「対中強硬論」を続ければ「日本国内では保守派の支持を強め、求心力が増すという計算も働いた」と日本政府の関係者は証言する。
ただ、高市流ポピュリズムの特徴は、極端な政策は打ち出さない点だ。消費税については、税率の大幅で恒久的な引き下げではなく、食料品に限定した税率の2年間引き下げにとどめている。中国に対しても、台湾有事発言に踏み出したものの、厳しい対中批判は封印している。財政や外交でジワリとポピュリズムの政策を打ち出し、「人気取り」の材料とする手法は巧妙ともいえる。














