中国のAIモデルが世界的な競争力を急速に高めていることで、ワシントンでは警戒感が広がっている。従来の保護主義的な政策手法に新たな試練を突き付けてもいる。

グリア米通商代表部(USTR)代表は21日、「中国がどのようにAI開発を推進しているのかを非常に注視している」と述べた。ベッセント米財務長官はこれとは別に、米国の知的財産(IP)を盗用していることが判明した外国製AIモデルに制裁を科す可能性があると述べ、中国製AIを利用する企業にも圧力をかける可能性を示唆。「偽造品を使うことはできない」とも語った。

しかし、トランプ政権が中国のオープンウエート型モデルの利用抑制に踏み切った場合、以前の保護主義的措置では見られなかった課題に直面することになる。中国製電気自動車(EV)には関税を課すことができ、華為技術(ファーウェイ)の5G通信機器は使用禁止にできた。

だが、一度公開されるとダウンロードや改変が可能で、ローカル環境でも実行できるソフトウエアを封じ込めることははるかに難しい。

MATSリサーチのフェロー、クリスティ・ローク氏は「これは2018年の華為技術の5G機器禁止とは全く異なる」とし、「世界は変わった」と述べた。

中国製AIモデルの利用は既に米国でも広がっており、米国のユーザーや企業に混乱を招かずに利用を制限することは難しくなっている。複数のAIモデルを利用できるプラットフォーム「OpenRouter(オープンルーター)」では、米企業によるトークン利用の約60%を中国製モデルが占めている。

シリコンバレーのスタートアップや研究者はカスタマイズ可能な中国製モデルを活用しており、食品宅配サービスを手掛ける米ドアダッシュや民泊仲介のエアビーアンドビーも、OpenAIやアンソロピックの米国製モデルに代わる低コストな代替手段ないし補完的手段として採用している。

シリコンバレー

シンクタンク、インスティチュート・フォー・プログレス(IFP)の著名テクノロジーフェロー、サイフ・カーン氏は、政府機関で中国製AIモデルの利用を禁止すること自体は驚くべきことではないと話す。一方で、規制を民間企業にまで拡大すれば、大きな反発を招く可能性があると指摘した。

カーン氏は「米政権が中国のオープンウエート型モデルの民間利用を禁止しようとすれば、オープンソースコミュニティーやAI研究コミュニティー、シリコンバレーの一部から反対の声が上がるだろう」と述べた。

グリア代表は経済専門局CNBCのインタビューで、現時点では結論は出ていないとの認識を表明。「状況は急速に変化しており、われわれは特定の基準の是非をあらかじめ決めているわけではない。しかし、中国がどのようにAI開発を推進しているのかを非常に注視している」と述べた。

ベッセント長官は21日、FOXビジネスとのインタビューで、中国製AIモデルの多くから米国の大規模言語モデル(LLM)の痕跡が見つかっており、「容認できない」と発言。「今後数日から数週間のうちに、この問題を調査する」と語った。また、「中国製モデルを利用している企業は、その事実を顧客に開示する義務を負うのかという問題もある」との認識を示した。

習氏訪米も念頭に

米国が中国製AIモデルを禁止すれば、ベーステンやファイヤーワークスAIを含むAIインフラ企業の事業に混乱をもたらす可能性がある。これらの企業はオープンウエート型モデルの提供を事業の柱としており、その多くは現在、中国製モデルとなっている。オープンソースAIコミュニティー・プラットフォームのハギング・フェースで勤務した経験を持つ独立コンサルタント、ティエジェン・ワン氏がこのように解説した。

また、トランプ大統領が中国製AIモデルへの対抗措置に踏み切れば、世界2大経済大国である米中の間でようやく築かれつつある脆弱(ぜいじゃく)な貿易休戦にも緊張が走る可能性がある。9月の訪米が見込まれている習近平国家主席は17日、上海で開催された世界人工知能大会(WAIC)で初めて演説し、「AI分野で国家安全保障の概念を拡大適用」することに警告を発した。

米中は習氏が9月24日に予定している訪米を前に、トランプ政権下で初となる公式のAI対話を開催する準備を進めていると、ロイター通信は報じた。それまでの間に新たな規制が導入されれば、対話が始まる前から協議に影を落とす可能性がある。

もっとも、中国製AIモデルの普及を鈍化させるために全面的な禁止措置が必要とは限らない。カリフォルニア大学サンディエゴ校の客員研究員マーク・ウィツケ氏は、中国製AIモデルをホストしたり導入したりする企業に対し、法的コストやレピュテーション(評判)上のコストを高める対応も米政府には可能だとの見方を示した。

「FUD」オプション

ウィツケ氏は、中国の対米投資を冷え込ませた国家安全保障審査を例に挙げ、「具体的な措置そのものよりも、規制の不確実性が生み出す全体的な環境の方が重要かもしれない」と指摘。「規制措置の可能性について議論するだけでも、一部の企業は取り組みの見直しを迫られる可能性がある」と述べた。

一方で、米国がどこまで踏み込むべきかを巡っては、AI政策当局者の間でも意見が分かれている。

OpenAIの戦略的未来部門責任者で、トランプ政権でAI顧問を務めたディーン・ボール氏は、政権にとって最善の戦略は、中国のオープンウエート型モデルの利用を巡り「大きな規制リスク」を生み出し、事実上「FUD(Fear, Uncertainty and Doubt=恐怖・不確実性・疑念)」を醸成することだとの考えを示した。

ボール氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「十分な根拠がなくても構わない。規制リスクを十分に高めれば、規制対象となる企業はいずれも利用を控えるようになる」と主張した。

これに対し、現在は大統領科学技術諮問委員会の共同議長を務めるベンチャーキャピタリストのデービッド・サックス氏は強く反論。「規制上の判断は常に十分な根拠があり、事実や論理、証拠に基づくべきで、恐怖や不確実性を意図的に利用してはならない」とXに投稿した。

米国の戦略を中国が逆手に

この対立は、ラトニック米商務長官が当初打ち出した戦略を中国が逆手に取りつつある可能性も浮き彫りにしている。ラトニック長官は昨年以降、米国の技術的優位性を維持しながら、中国の開発者を米国の技術の組み合わせに「依存」させ続けることを目指してきた。そのための方策として、エヌビディアの最先端製品より性能を抑えた半導体の対中販売を認めるべきだと主張してきた。

しかし、中国の開発者は現在、独自の依存関係を築きつつある。低価格な中国製AIモデルは、米国のスタートアップや研究者、AIインフラ企業の業務に広く組み込まれるようになっており、トランプ政権がそうしたつながりを断ち切ろうとした場合、米企業が影響を受けやすい状況になりつつある。

また、米国の保護主義的な政策に同盟国の足並みをそろえさせることも容易ではない可能性がある。過去には、米国は一部の国に働きかけ、華為技術の通信機器を通信ネットワークから排除することに成功した。

だが、企業が内容を検証・改変し、自社のローカル環境で運用できるソフトウエアについては、国家安全保障上の懸念を根拠とする主張を展開することは難しくなる可能性がある。

カリフォルニア大サンディエゴ校のウィツケ氏は「重要インフラに組み込まれる中国製ハードウエアと、民間企業が利用する調整可能なオープンソースモデルとでは事情が異なる」と話した。

習氏のメッセージ

一方、中国政府は、AIを巡る対抗ビジョンの中核としてオープン性を前面に打ち出している。習氏はWAICでの演説で各国に対し、「オープンソース、開放、協力、共有を促進」し、広範な産業の企業がAI技術の恩恵を受けられるようにすべきだと呼び掛けた。

習氏は「万人のためのAI(AI for all)」にも言及し、デジタル格差が拡大する中で、各国はAI技術をどのように幅広く利用できるようにすべきかと問いかけた。

このメッセージは、中国が世界のAI標準づくりへの影響力を強める取り組みを後押しするとともに、中国のAI開発企業が持つ商業的な優位性を強化する狙いもある。

最先端AIを独自に開発するだけの資源を持たない国々にとっては、中国製AIモデルは低価格で柔軟性も高く、採用を見送るには魅力が大き過ぎる可能性がある。

MATSリサーチのローク氏は、中国製モデルはいずれにしても世界に広がっていくとし、「世界の他の国々は今後もそれを使い続けるだろう」と語った。

原題:China’s ‘AI for All’ Offensive Defies US Containment Playbook(抜粋)

--取材協力:Courtney Subramanian、Jordan Fabian、笠原文彦.

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