「WEAZER」でインフラの課題を解決したい

こうした電力の確保と水の濾過は、もともと存在する技術を組み合わせたものだが、「WEAZER」が革新的なのは、電力や水を地産地消し、省エネルギーやエネルギーの効率化を実現する技術だ。

ARTHでは約120人の従業員のうち、約80人が宿泊施設で勤務し、約40人が企画や研究開発を担当している。高野由之代表取締役社長は、「WEAZER」の強みを次のように説明する。

「WEAZERを建設する土地については、気象庁が提供している1時間おきの日射量、降水量、湿度、気温などのデータを20年分取得して、どれだけの太陽光エネルギーや水が得られたのかをシミュレーションします。

その上で、太陽光パネルのスペックや蓄電池の容量、建物の大きさやシャワーの個数などを決めています。過去のデータから統計的に分析して、ソフトウェアによってエアコンなどのハードウェアを制御することで、基本的にはインフラがなくても、世界中のかなりの場所で100%自給できるのがWEAZERの仕掛けです」

高野由之代表取締役社長

高野社長がARTHを創業したのは10年前、31歳のときだった。トヨタ自動車からコンサルティングファームを経て、旧産業再生機構の地域創生チームに所属していたときに、自ら地方創生のプレイヤーになろうと考えた。

「地方で新たな産業を起こして経済を活性化することを、民間事業者としてやりたいと考えたのが起業の理由でした。ホテルを開業するために起業したわけではなく、ホテルはあくまで手法の一つです。地域の自然や歴史、街並みや食文化などが失われつつある中、新しい技術や発想によって、いろいろな地域で事業を起こしていきたいと考えています」

ARTHではWEAZERを製品化する前からホテル事業を手がけていたが、高野社長は事業を広げていく過程でインフラの課題に気付いたと話す。

「辺鄙な場所でホテルを経営していると、同じように辺鄙な地域からたくさん相談が来ます。ただ、海が見える良い土地であっても、電気も水道も来ていない場合が多く、課題はインフラでした。インフラがあっても老朽化しているため、20年後や30年後まで行政が維持するのは難しい場所もあります。

また、海外の途上国では、水が汚く、電気が通っていない場所もたくさんあります。そこで、インフラに頼らず自然の恵みだけで現代的な生活を送れる建築を研究開発できれば、世界中で役に立つと考えました」

高野社長は起業して数年が経過した頃から、インフラがなくても電力と水を自給できる建物の研究開発を進めた。その結果、3年前に製品化したのがWEAZERだった。

「そもそも私たちが使っている電気は、中東の国々などで採掘されて精製された石油をタンカーで運んできて、火力発電所で燃やして、電柱と電線を張り巡らせることで、ようやく家庭に届いています。ダムや水道が必要な水も同じです。環境やお金、人、労力にとてつもない負担をかけて莫大な無駄をしています。

太陽光発電は世界のどこでもできますし、雨水はそもそも水道水に使う河川の水よりもきれいです。屋根の上に雪が積もる豪雪地帯だけは苦手にしているものの、それ以外の地域では自然の中にあるリソースを有効活用できるように開発しました」