(ブルームバーグ):香港はスイスを僅差で追い抜き、世界最大のオフショア資産運用拠点となった。しかし、そのビジネスの持続可能性には早くも疑問の声が上がっている。
きっかけは、中国による越境株式トレーディングの取り締まり強化だ。厳しい処罰に加え、中国当局はオンライン証券会社3社に対し、中国本土の居住者が現在保有する口座を2年以内に全て清算するよう求めた。このうち最大手は香港に拠点を置いている。
同時に、香港の証券規制当局は顧客受け入れ時の本人確認手続きの不備に警告を発し、休眠口座の厳格な監視を求める声明を公表した。

現時点で中国当局の矛先は、個人投資家向けオンライン証券会社である富途控股、UPフィンテック・ホールディング傘下の老虎証券、長橋証券の3社に向けられている。しかし、より大きな問題は、香港が誇るプライベートバンキング事業にも影響が及ぶかどうかだ。
今回の措置を巡り、中国が本土からの資本流出に対する管理を強化しているとの見方が広く共有されている。無秩序な資本流出は人民元相場を押し下げ、金融システムを不安定化させるとの懸念がある。
すでに慎重姿勢を強める金融機関もある。香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によれば、三井住友銀行が出資する東亜銀行の上海支店は富裕層顧客向けのオフショア口座開設を停止した。
スイスのUBSグループは中国で予定していた年央の資産運用見通しイベントを延期し、英HSBCホールディングスは香港拠点のプライベートバンカーに対し、不要不急の本土出張を控えるよう求めている。
富裕層の資産運用は極めて収益性の高いビジネスだ。ゴールドマン・サックス・グループの試算によると、HSBCではこの事業の自己資本利益率(ROE)が35%に達し、同行平均の17%を大きく上回る。
ボストンコンサルティンググループ(BCG)によれば、香港の越境資産は昨年、10.7%増の2兆9000億ドル(約465兆円)となり、運用資産の59%を中国本土からの資金が占めた。

こうした容易に得られてきた収益が、一夜にして消えかねない。少なくとも3つの大きな障害があると筆者は考えている。
第一に、中国当局はオンライン証券会社が越境株式トレーディングで本土顧客を勧誘するライセンスを保有していなかったとし、法律に違反したと主張している。
米ナスダック市場に上場している富途は、政府に全面的に協力すると表明する一方で、反論を提示しヒアリングを求める権利を有していると説明した。
これまでグローバル展開する銀行が香港に置く資産運用担当者は、本土を訪れて顧客との関係を深めてきた。ただし、口座開設や特定の投資商品の説明は、顧客自身が香港を訪問するまで行われなかった。中国当局は今後もこうした慣行を認めるのだろうか。
第二に、本土の顧客は中国国内にいながら海外投資を継続できるのかという問題だ。オンライン証券会社への取り締まりの一環として、今後、中国人投資家は本土内にいる場合、アプリ上で取引できなくなるとの理解が広がっている。
当局は証券会社に対し、ユーザーのIPアドレスやスマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)を利用して所在地を確認するよう求めることで、規制順守を徹底できる。
こうした厳格な解釈が国際的な銀行にも拡大されれば、例えば上海に住む富裕層がオフショア口座を維持する動機は大きく低下するだろう。香港の銀行はすでに、証券規制当局から休眠口座の閉鎖を促されている。
第三に、中国当局がどこまで遡及(そきゅう)適用するのかという問題だ。富途と老虎は現在、本土居住者が保有する全口座の清算を求められている。
これは3年前の規制強化時に形成された本土の既存顧客へのサービス継続は認める一方、新規顧客の勧誘は禁止するという理解からの転換を意味する。
香港の金融当局は銀行に対し、投資口座に使用される資金が中国本土外で形成されたものであることを顧客に申告させるよう指示している。
英スタンダードチャータードの経営陣によると、同行が獲得する純新規資金の3割は、すでに海外に資金を保有している「グローバルな中国系顧客」からもたらされている。
もし中国当局がさらに一歩踏み込めば、単純な自己申告書では不十分になるだろう。現地の金融機関は自ら徹底したデューデリジェンス(資産査定)を実施しなければならない。それは時間も人手も要するコンプライアンス(法令順守)上の悪夢となり、資産運用部門の業務効率を大きく損なうことになる。
香港は自らを国際金融センターと位置付けているが、中国当局による今回の取り締まり強化は、そのイメージに対する真のストレステストだ。
今後数カ月で、中国の規制の手が証券会社から銀行にまで伸びるのかが明らかになるだろう。香港の富裕層向けプライベートバンキング業界は警戒を強める必要がある。
(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。同氏は投資銀行に勤務した経歴もあり、米経済紙バロンズでは市場担当の記者でした。このコラムの内容は意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Hong Kong’s Private Wealth Bankers Should Be Anxious: Shuli Ren(抜粋)
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