塩の声に耳を傾け、自ら“塩になる時”を待つ
塩づくりを始めて一番心に響いたこと、それは「待つ仕事」であるということだ。
熊本さんの働く能登製塩では「非直火式低温製法」という製法で塩づくりをしている。


海水を50℃以下の温度で加熱し、四昼夜かけて低温のまま塩を結晶化させる。カリウム、カルシウムなどのミネラルがバランスよく入る結晶ができ、柔らかな甘さの塩ができる。能登では伝統の「揚げ浜式」が主流のなか、珍しい手法だという。

工房でつくる塩は、職人の絶妙な感覚によって「1番塩」から「3番塩」までの3種類に仕分けられる。
「1番塩」は水分量が少なく、粒が大きくサラサラし、ダイヤモンドのような輝きを持つ。そこから時間を経て「2番塩」、そして最後の「3番塩」になるほど、にがり成分(マグネシウムなど)を多く含んだ複雑な味わいの塩へと変化していくのだ。
しかし、相手にするのは自然。取水した海水などの状態により、1番塩が2番や3番になることもある。必ずしも思い通りの塩が生まれるとは限らない。自然と向き合いながら、最高の状態を職人の感覚で見極めていく。

「塩ができるのをじっくり待てる人じゃないと続かないから」
工房での初出勤の日に責任者の馬鉢さんから言われた言葉だ。
この「待つ」ということを肌で感じたエピソードがある。
働き始めて間もない4月、イベントで行った塩づくり体験。
イベントでは、普段の低温製法とは異なり、直火で海水を加熱し塩を作った。出来上がった塩を味見してみると、驚くほどしょっぱい。工房で作っている甘みを感じる塩とは別のものになった。
同じ海水を使っているのに…。

「強制的」に塩にしたものと、ゆっくり「待って」作ったもの。
熊本さんはこの時に「待つ」ことの意味を実感したという。塩にも塩になりたいタイミングがある。
低温でゆっくり作る塩は、塩の声を聞きながら作る塩づくりなのだと。















