執念の逮捕「プロ野球に暴力団が関与することは断じて許されない」
話をプロ野球界に戻す。
猪狩から阪神タイガース私設応援団「中虎連合会」について相談を受けた竹花は、内容を聞くや否や重大性を察し、即座にこう断じた。
「これは重大事件です。前例がないからできない、では警察の恥だ。警視庁か兵庫県警のいずれかにやらせましょう。地の利を考えれば、兵庫県警が適切でしょう」
竹花は直ちに警察庁時代の部下に連絡を取り、事案の概要を説明した。そして「地の利がある」と考えて、兵庫県警の暴力団対策課が告発の窓口となるよう手配してくれた。
猪狩はすぐさま、第一東京弁護士会の民事介入暴力対策委員会の弁護士2人とともに新幹線に飛び乗り、神戸へ向かう。
兵庫県警で面会した刑事部長は、告発状に目を通すとこう告げた。
「筋はいいですね、受理しましょう」
猪狩はその日、筆者に連絡をくれた。
「告発を受理してもらった後にさ、三人で神戸の中華街をぶらつき、飯に行ったんだよ。やっと捜査に着手してくれるという満足感もあって、ビールが最高にうまかったよ」
だが、真価が問われるのはここからだった。
実際の捜査にあたった兵庫県警のY警部補らの動きは迅速だった。
「Y警部補は非常に優秀だった。短期間で著作権法を徹底的に学び、東京まで私を訪ねてきた。事件の発端から告発に至るまでの経緯を詳細に聴取し、供述調書にまとめていった。質問はいずれも核心を突いていた。必ず立件してくれると確信した」(同署)
そして2005年3月2日、兵庫県警は「中虎連合会」会長の元暴力団員らを著作権法違反の疑いで逮捕した。
警察によれば、手口はこうだ。
会長らは阪神タイガースの応援歌「ヒッティングマーチ1番」(投手用)と「ヒッティングマーチ2番」(野手用)について、作詞・作曲者を「中虎連合会」とする虚偽の登録を日本音楽著作権協会(JASRAC)に申請。CDなど12万枚以上を販売し、さらに着メロ配信も行うなどして、著作権使用料として数千万円を不正に得ていた。
猪狩の調査によれば、1番はアメリカ映画『トランザム7000』の楽曲、2番は立教大学の応援歌「セントポール」をもとに、演奏を重ねる中で旋律が固まり、自然発生的に歌詞が生まれたものだった。明らかに、「中虎連合会」が作者であるはずはなかった。
不自然だったのは登録の経緯である。2001年までは「作詞・作曲者不詳」とされていたものが、2002年になって突如、「中虎連合会」名義へと変更されていた。
背景には、JASRACが十分な裏付け審査を行わないまま登録を認めていた実態があった。さらに、CDを制作していた音楽会社「コロムビアミュージック」の社員も、虚偽申請を手助けした疑いで逮捕された。同社員は取り調べに対し、元暴力団員に依頼されたことを認めている。
長年、暴力団の資金源となっていた著作権料に、ついに捜査のメスが入った。
事件は全国的に大きく報じられ、これを機に「中虎連合会」は解散へと追い込まれる。
元会長逮捕を受け、猪狩は記者会見でこう語った。
「夢を与えるプロ野球に暴力団が関与することは断じて許されない。今後も情報収集を続け、暴力団とのつながりに切り込んでいく」
JASRACについても、「自主的な審査を欠いた著作権管理のあり方は、改めて検証されるべきだ」と厳しく批判した。
刑事摘発と歩調を合わせるように、NPBも応援体制の見直しに踏み切った。
2006年シーズンから鳴り物入り応援を原則禁止とし、私設応援団の活動は全面的に「許可制」へ移行。申請時には構成員の氏名、連絡先、それに「顔写真」の提出を義務付け、2007年以降は「顔写真」入りの許可証(IDカード)の球場内常時携帯を求めた。
「法による摘発」と「制度による規制」。二つの歯車がかみ合い、球界の風景は確実に変わり始めていた。
――だが、事態はそう簡単には収束しなかった。














