「死ぬしかない」 港で一晩中続いた葛藤
奥本さん夫妻はその日の夕方、章寛が勾留されている宮崎北警察署に着いたが、会うことができない。行く当てもなく途方にくれていると、朝から何も食べていないことに気がつき、コンビニでおにぎりとペットボトルのお茶を買った。
和代さんはおにぎり1つを夫と半分に分けて口に入れた。全く味がせず、砂を噛むようである。せめて水分だけでもとらねばと思いお茶を飲もうとしたが、苦しくて喉を通らず、一口、呑み込むのがやっとだった。
人目を避けるため、車で彷徨い続けると、着いた先は宮崎港だった。「家族がばらばらになるしかない」。車内で交わされる話の最後は決まってその方向に進んでいく。やがて夜が更け、夜勤明けで一睡もしていなかった和代さんがうつらうつらとし始めた。
浩幸さんは妻が眠りに落ちた30分ほどの間、一人で考えこんでいた。
「息子がこんな事件を起こしてしまったのだから、とてもじゃないけど地元には帰れない。このまま死ぬしかない」
車を海の際まで移動させ、アクセルを目一杯踏み込んで、海に飛び込もうと考えた。何度もアクセルを踏もうと思いながら、ぎりぎりのところで自分を抑える。死への誘いと、それに抗う思い。その葛藤が一晩中、続いた。

















