現場の声―アスリートのキャリア支援から見るリアル

引退を決め、その後のキャリアを考えたとき、選択肢の多くが「そうするしかない」という、あらかじめ敷かれたレールの上にあるように感じた。

そしてその当時の私と同じように、多くのアスリートがセカンドキャリアへの課題に直面しているのではないだろうか。

ときに日本を背負い戦うその姿で、多くの人々の心を動かしてきたアスリート。しかし、そんな彼らにとって、競技を終えたあとに続くキャリアは決して平坦なものではない。

文部科学省が行ったアスリートのキャリアに関する調査で、キャリア支援に携わる大学職員に「(学生)アスリートはキャリアを考えるように変わったと思うか」という質問をしたところ、以下のような調査結果が出た。

▼「とても考えるようになったと思う」
「まあ考えるようになったと思う」…39.2%
▼「変化は感じない」…40.5%
(アスリートのキャリアに関する実態調査 2020年文部科学省資料より)

キャリア教育支援や制度が存在していても、その意義や目的がすべてのアスリートに十分に届いているとは言いきれない。

調査の中にも「手本にすべき先輩がおらず、どのような道があるのか分からず苦労した」「自分が思い描いていたものはアスリートとしての未来で終わっていた。現役中は明確な目標があったが、これから先は探している最中」など、アスリートが抱えるセカンドキャリアへの不安の声が書かれている。

そんなアスリートの不安と向き合う人がいる。

元競泳日本代表で、2021年に引退した諸貫瑛美さんだ。現在は求職者と就職サポート会社を繋ぐ「株式会社ラリード」に勤務し、アスリートのキャリア支援を担当をしている。

そんな諸貫さんに、アスリートのセカンドキャリアについての現状を聞くことができた。

2018年福井しあわせ国体で優勝した諸貫さん

ーーこの仕事を始めたきっかけは?

株式会社ラリード 諸貫瑛美さん
「私自身、28歳まで選手活動を続けてきて、いきなり引退がやってきました。いち求職者として、『この年齢から未経験でも働ける会社があるのか』と、セカンドキャリアの難しさを痛感しました。

引退した当時は、自分が何をしたいのか、どういう会社があるのかすらもわからない状態でした。自分で調べて、アスリートの就職支援をしている会社があると知り、たどり着きました」

自身の経験が生きる場所だと感じ、現在の職業を選択したという。実際にアスリートのキャリア設計に携わる中で、彼らの抱える課題が、過去の自分と重なることもあるのだそう。

諸貫瑛美さん
「(現役選手は)競技のその先を考えるべきだけど、今はやるべきことがあるからこそ行動できていません。『いつかは考えなければと分かっていても...』という人は多いです」

諸貫さんは、この仕事を始めて2年が経ったころ、思いがけない出来事によって、人生が一変してしまった選手を見たという。

諸貫瑛美さん
「大学卒業後は実業団チームが決まっていたラグビー選手がいました。私たちはリスクヘッジで万が一のことも考えながら就職活動をしておくことを勧めていますが、その子は競技を続ける選択をしていたので、就職活動はストップしていました。

しかし、入社する1か月前に『骨折して競技継続ができません。実業団も白紙になりました』という連絡が来て...。けがをした時のリスクを伝えた時も、『その時考えます!』と言っていたので、実際にその状況にならないと、想像できないことがあって」

諸貫さん自身がアスリートだったからこそ、競技中であっても、その先の人生を見据えることの重要性を伝えていきたいと語る。

諸貫瑛美さん
「競技人生より社会(引退後の生活)の方が長いです。私の仕事は、人生のきっかけは与えられるけれど、選択をしたり決断をしたりするのは結局は自分次第。アスリートの引退っていきなりやってくるからこそ、現役の時から1時間、2時間でも空いた時間に社会人としても準備をしておくことは大事だと思います」

諸貫さんの取材を通して見えてきたのは、アスリートのキャリア支援は「答え」を与えるものではなく、競技の先の人生に目を向けるための「きっかけ」を届けるものだということだった。