森七菜がこじらせている「ひらやすみ」
影山 僕のイチオシはNHKの「ひらやすみ」です。何も起こらないドラマです。15分のドラマですが、15分見て「何かあったか?」という感じ。
主人公はもともと俳優を志し、俳優の日々も送ったのですが、そこで思うことがあり、つらい経験もして今は都内の釣り堀でのんびりアルバイトをしている。そんな彼が、ちょっとしたきっかけで、一軒家に一人暮らしのおばあちゃんと知り合う。週のうち何回か晩ご飯をごちそうになるぐらいの関係になって、何かとおばあちゃんの心配をする。
そこから血縁を超えた互いの愛情が育まれ、やがておばあちゃんは亡くなるのですが、彼女が住んでいた都内の一等地の平屋を譲渡されるんです。そしてそこにやってくるのが、漫画家を目指して美大に進学、上京してきた従妹。森七菜さん演じる彼女とのふたり暮らしが描かれていきます。その森七菜がとてもいい。自然体で、ちょっとオタクで東京になじめず、自意識が過剰。
田幸 彼女はやっぱりうまいですね。あのこじらせぐあい、自意識とシャイの混じり合った感じとか、頭から爪先まで全身で表現してみせる、その細かさが見事でした。
倉田 上京してきて、ウェーイと盛り上がっているカースト上位っぽい人の中に入っていけない雰囲気もわかりますし、そういう人たちに近寄りたいけど近づけないみたいな微妙な心情を上手に演じていました。
影山 話を広げますが、今の社会は皆さんが疲れ切っているから、癒しを求めてこういう「何も起こらない」作品が注目されるのかもしれません。「考察できない系」ドラマですね。なにかと考察したがる視聴者に向けて「どうや、こんなドラマもあるぞ」と、エンターテインメント自体を楽しむ原点を伝えていると思います。
この世知辛い世の中、解を求める方向にばかり走って、その解もいくつもあっていいのに、その中の一つが正解で、あとは全部間違いみたいな、そういう見方をする人が少なからずいると思うんです。そういった風潮にアンチテーゼを示したこの作品の存在意義は大きいと思います。
何も起こらないと言いましたが、後半部分で主人公の親友が、仕事や人生、妻との関係に思い悩むんです。それを心優しい主人公が、先回りして先回りして、さりげなく気配りをして彼を救う。そのさりげなさが魅力的でした。
大層な、しゃくし定規な、大上段に構えた人生観ではなく、さりげなく生きることに喜びと幸せを見出す。僕たちが忘れがちなことで、それを求めている人たちは少なからずいるはずなのに、そうではない方向に社会がどんどん行っていると感じながら僕はこの数年過ごしています。
田幸 私の周りでも、ドラマは「ひらやすみ」しか見ていないという人が結構います。「もうこういうのしか見られないんだよ」みたいな言い方を何人かから聞きました。社会が傷んで、いっぱいいっぱいになった人が、この作品に救われていると感じます。
親友の悩みへの向き合い方がすばらしい。男性は割と弱音や愚痴を言いづらく、不満や疲労を言語化できない中、妻なり彼女なり異性にケアを求めることが多く、それもうまく吐き出せず八つ当たりみたいになることもあります。
そんな中、男性同士の友情がケアになっていく。男性もしんどいことはしんどいと言っていいと思いますし、それを出す先が同性だっていいはずです。この作品は男性のケアの物語でもあって、こういう作品が増えるといいなと思います。
影山 僕もたとえば仕事場で「助けて」とは言わなかったし、今もそうですね。本当はもっと言ってもいいんですよね。彼女や奥さんにそのしわ寄せが行く方がよくないですし。














