「ぼくたちん家」、横領した3000万円という金額の意外な根拠
倉田 「ぼくたちん家」(日テレ)がよかったです。及川光博さん演じるゲイの男性が古いアパートに引っ越してきて、知り合った手越祐也さん演じる中学校の教師に恋をする。一見BLみたいな設定ですがそうではなく、家族のあり方や人と人のつながりを深く考えさせられるドラマになっていました。
及川さんが引っ越したアパートに中学生の女の子がひとりで住んでいます。お父さんは離婚していなくて、お母さんとふたり暮らしでしたが、そのお母さんが勤務先で約3000万円を横領して失踪。その結果ひとりで暮らしているんですが、その彼女の担任の先生が手越さんという関係です。
及川さんはその子から、父親がわりになってみたいなことを頼まれます。そのときの及川さんの協力の仕方がすごくナチュラルで「じゃ、僕がお父さんになって構ってあげなきゃ」みたいな感じでもなく、いい距離感を保ちながら彼女との関係を築いていく。
何でそんな上手な距離感の築けるのかとなったとき、やはり彼がゲイというのが一つのポイントになると思います。社会の中で少数派、マイノリティとして生きてきた中で、人への優しさが生まれてきたというのを繊細に演じていました。こういう人が身近にいてくれたらいいなと思うすばらしい演技でした。
一番共感したのが、逃亡中のお母さんが出てくるところです。彼女がなぜ横領したかというと、氷河期世代で就職がうまくいかず、派遣社員のまま働き続け、あるとき男性との給与格差に気づく。そこでどうしたかというと、自分が正社員で、なおかつ男女の給与格差がなかった場合に貰えていたはずの金額をぴったり1円単位で横領して逃げるんです。
そのお母さんが「女だからなめられていた」と言います。私も女性として働く中で、女だからこんな態度をとられているのかと感じることはたくさんあって、なめられたと思ったときは戦いもしますが、もちろん怖くて戦えないときもあります。その辺の悔しさを明確に示してくれたことに感謝の気持ちが湧きました。
田幸 男性同士のカップルを、全然特別でない描き方をしているのがいいと思いました。
「おっさんずラブ」(テレ朝・2018ほか)では、全く差別のないファンタジーの世界が描かれていて「きのう何食べた?」(テレ東・2019ほか)は男性同士の話でありながら、老いや生活が軸になっていて差別の描写は大分薄くなっています。それに対して、この作品では普通にゲイのカップルを描きつつ、差別もなかったことにしない。
いいなと思ったのが、母親の元夫役、光石研さんの描写です。最初は悪い昭和の感じで「あいつゲイなんだろ」と平気で言う。やがて及川さんがいい人だとわかってくると「あいつゲイなのにいいやつだな」となっていく。その言葉自体がすごく差別なのですが。
そんな化石のような価値観の光石さんも、実は男らしさという幻想に縛られてきたことがわかってきます。大きな車に乗るなどといった、男らしさの理想をずっと追いかけつつ、それに苦しめられてきた。差別をする側だった彼が、差別をされる側の人に接し、理解していくうちに自分自身が変われるかもしれないと思う。
「俺でも変われるかな」と言って「変われる」と肯定してもらえたことで、捨てられていたウサギを拾って飼ってやり直す。明るく笑顔で挨拶する練習をこっそりしてみたりする。人はいつからだって、変わることができるというメッセージを感じました。
世代間で分断が起こりがちな中、差別が普通にあった時代を生き、そういう差別をした、あるいは差別を見て見ぬふりをした人たちも今から変わればいいんだと思える。世代を分断させない描き方がうまいと思いました。
脚本は松本優紀さんという新人の方ですが、彼女の書くせりふが本当にすばらしい。メモをとって書きとめたいせりふがたくさんありました。














