「核保有」発言がもたらす影響

今回の発言について太田さんは「日本の国益を損ねかねない」と懸念を表明しています。

「日米同盟は、核の傘に日本が依存する代わりに日本は核を保有しないことが大前提です。例えば1975年に三木武夫首相とフォード大統領が出した日米共同新聞発表でも、アメリカの核抑止力に日本は依存するが、日本はNPTに速やかに加盟するという約束がなされています」

太田さんは「政権中枢から核保有すべきだという発言が出れば、アメリカから見ると『日本はそんなことを考えているのか』という疑念を(アメリカ側に)抱かせかねない。(アメリカ第一の)トランプ大統領なら『日本も核を持つべきだ、それがアメリカにとっても安上がりだ』と言い出す可能性もあり、日米同盟の土台が揺らぐ恐れがあります」と指摘しています。

いま、世界の核情勢も緊迫しています。太田さんは「来年2月には、アメリカとロシアの間で最後に残った新戦略兵器削減条約(新START=ニュースタート)が期限を迎えます。プーチン大統領は延長を示唆していますが、アメリカからの正式な回答はまだなく、1970年代以来初めて米ロ間に核軍縮のルールがない時代が来るかもしれません」と警鐘を鳴らしています。

さらに中国の核兵器増強も進んでいます。「最近のデータでは中国は600発の核兵器を持っており、これが1,000発、さらには1,500発に増える可能性があるとアメリカ国防総省は分析しています。核の三つ巴の時代(米中露の「3匹のサソリ」の時代)がやってくる中で、日本も(新たな)サソリとして加わるのかという問いが生まれてきいます」

このような状況下で、太田さんは「冷静に3つの核保有国をどう制御するかという議論を真剣に、特にアメリカとタッグを組んでやっていく必要がある」と強調しています。

唯一の被爆国としての責任

澤田記者によれば、今回の発言に対して自民党内からも批判の声が上がっています。元防衛大臣の中谷元氏は「何らかの処分をすべき」と述べ処分を求めたほか、外務大臣経験者からも非難の声が出ています。公明党の斉藤代表は広島選出ということもあり、早い段階から強い調子で批判しています。

太田さんは被爆者の立場からも問題を指摘します。「被爆者の協会が談話を出し内閣に(メッセージを)送ったという反応もあります。昨年、(日本)被団協はノーベル平和賞を受賞しましたが、核のタブーを80年間守ってきた日本で、こうした発言が出ること自体、被爆者の話を一度も聞いたことがない人が言っているのではないかという疑念すら抱きます」

さらに「日本が一番大事なのは被爆体験に根ざして核廃絶を求めることです。核は使ってはいけない、使える兵器ではないという核のタブーを強めていくことによって、核を誰にも使わせないということを日本が率先してやってきました。そんな国が核を持つと言った瞬間、日本の外交に対する権威、信頼、道義が失墜するのではないでしょうか」と懸念を示しました。

今後の焦点

澤田記者によると、通常国会の開会は1月23日と報じられており、それまでの1カされるタイミングでもあり、核をめぐる議論も予算審議の中で取り上げられる可能性があります。

今回の発言は、核保有という重大な政策転換を示唆するものであり、その言葉の重みと影響について国会や社会での議論が続くことになりそうです。唯一の戦争被爆国として、日本が核政策をどう位置づけていくのか、国際社会での信頼と役割の観点からも注視される問題です。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年12月22日放送「政府高官の『核保有』発言から考える~オフレコ取材、核をめぐる議論の行方」より)