2016年1月15日未明、長野県軽井沢町で発生したスキーツアーバス転落事故。大学生ら15名が犠牲となったこの事故から、2026年1月で10年を迎える。事故の風化を防ぎ、交通安全の意識を次世代へ継承するため、遺族団体「1.15サクラソウの会」のメンバーが軽井沢高校で講演を10月に行った。失われた命への思い、再発防止への取り組み、そして若者たちへのメッセージとは。【前編】

「陸人に会いたい」──父親としての思い

田原さんに続いて登壇したのは、大谷慶彦さん。息子の陸人(りくと)さん(当時19歳)を事故で失った父親だ。

「1996年7月16日生まれで、田原さんと同じ19歳で亡くなっております。今の皆様とそれほど違いがないのではないでしょうか。3人兄弟の長男で、下には次男と長女がおります」

陸人さんは幼稚園の頃から父親と一緒にスキーをしており、中高大とラグビーをやっていた。中学生時代には反抗期で父親と一言もしゃべらない時期もあったが、高校生になると仲良くなり、一緒にスキーに行くようになっていた。

そんな平凡な日常が、2016年1月15日、突然奪われた。

「当時、私は鹿児島に単身赴任しておりました。朝、ホテルの部屋の中でテレビを見ていて、この事故のニュースを知りました。そのときはもちろん、大変な事故だなと、他人事でしか考えていませんでした。しかし、妻から電話がかかってきて、この事故に息子が乗っていた、そして亡くなったという電話をもらいました」

一体何を言っているんだろう──大谷さんは理解ができなかった。その後、急いで軽井沢に向かったが、そのときの記憶はほとんどない。