アンコンシャスバイアスに気づくこと

社会の中でルッキズムがどのように作り上げられ流布されるかを問題にするのが社会学であるのに対し、私が専門とする心理学では、個人の中でどのようにルッキズムが作り上げられるかを問題とする。つまり心理学が扱うのは、社会現象としてのルッキズムの背後にある、発信源の個人についてである。

ルッキズムが生み出される仕組みを、個人の側面から考えてみよう。ルッキズムの根源にあるのは、発言した本人が正しいと思っているものの、実際は歪んだ評価に基づくことにある。自分たちが正しいと思い無意識に下している評価に、バイアスがかかっているのである。これを心理学では「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」とよぶ。

アンコンシャスバイアスはステレオタイプに近い現象である。ステレオタイプについては、知っている人も多いだろう。極端に固定された共通認識で、たとえば、漫画やアニメで出てくるような悪人のイメージ、血液型判断による典型的な性格特性などである。あまりに一面的すぎると問題となることも多い。

ステレオタイプ的な歪んだ判断を、周りの人々に対して日常的に行うことで問題視されるのがアンコンシャスバイアスである。たとえば白人はよい人で黒人は悪い人、子育てや家事は女性がして外に出て稼ぐのは男性がすることなど、個人の経験上のものさしをもとに、単純で紋切り型で根拠のない判断をすることなどだ。こうした判断は無意識に行われ、判断をした人は正しいと思い込んでいるため、やっかいなのである。

アンコンシャスバイアスの強さには個人差があり、その程度を測るテストとして、アメリカの社会心理学者マーザリン・バナージとアンソニー・グリーンワルドが開発した「潜在連合テスト(IAT)」がある。このテストにより、意識されない自分のバイアスの強さを知ることができる。日本語版のテストはウェブ上で気軽に体験できる。

アンコンシャスバイアスもアンコンシャスバイアスに基づく発言も無自覚なため、自覚化することが必要である。社会学者の西倉は、「場面と関係のない外見評価をしないこと」「その美醜観に、これまでの差別の問題が絡んでいないこと」の自覚化を勧めている。