ニュースメディアの対応: 協業か対抗か
このような構造変化に対し、世界の報道機関、ニュースサイトはさまざまな「対応」に分かれている。これまでも検索エンジンやニュースポータルに対し、ニュース記事を提供する報道機関は緊張と融和の両面の対応を強いられてきた。
ひとつの方向性は、これらのプラットフォームやAI事業者との「協業」を模索する方向である。例えば共同通信社は、Googleとの間で、同社の生成AIサービスであるGeminiに対して、「信頼性の高いニュースを提供する」目的でニュースコンテンツを提供する契約を結んでいる (注5)。
また、The New York Timesは、Amazonとの間でAI接続に関するライセンス契約を結び、ニュース記事の要約等をリアルタイムに提供するとともに、同社のLLM(大規模言語モデル)の学習にも利用されるという(注6) 。これらは、AIの「材料」としてのニュース記事の商業的価値を明示的に認めた初期事例といえるだろう。
もうひとつは、報道機関のコンテンツの「無断利用」を阻止するための「防御策」を模索する方向性である。2025年8月には、読売新聞社が生成AI事業者Perplexity AIを相手取り、著作権侵害および不正競争防止法違反で東京地裁に提訴した(注7) 。Perplexity AIの生成する回答の中に、読売新聞社の記事内容が無断で再利用されていたとの主張だ。
その後、朝日新聞社と日本経済新聞社も同様の理由で共同提訴に踏み切っている。これらの訴訟は、AI事業者がWebスクレイピング(Webサイトから特定の情報を自動的に収集・抽出する技術)を通じてニュース記事を再構成・要約し、出典を明示せずに利用していることへの問題提起といえる。
これらはいずれも、「プラットフォーム依存」が強まる情報環境において収益性と信頼性のバランスをどのように維持するかという、まさに現在進行形の困難を象徴している。
プラットフォームやAI事業者に記事を提供し、対価を得ることは、記事の発見可能性や収益性を一定の水準で確保することにもつながるが、これまでの広告収益や購読料に匹敵する規模になることは想定しづらい。
なによりも、メディアが受け手との直接の接点を失い、特定のプラットフォームやAI事業者に依存を強めることは、メディアとしての主体性・独立性を維持することの困難を強め、AIが必要とする「材料」の供給に特化せざるを得なくなる可能性すらある。
他方で、「入口」として存在感を高めるAIに対し、過度に防御的な対応を取ることは、潜在的な読者を失い続けることにつながる。そればかりでなく、本当はニーズがある可能性の高い「信頼できるニュース」を流通できる機会を減らすことで、かえって情報環境全体における偽・誤情報の増加を手助けすることにもなりかねない。














