従来の延長線上で膨らんだ生活支援
規模がこれほどまでに膨らんだ要因の一つが、物価高に対応する生活支援が、かなりばらまき型になったためです。電気・ガス代への補助は、この夏は標準世帯で3か月3000円程度でしたが、この冬は3か月7000円程度へと倍以上に積み増しました。この補助金は電気・ガス1単位当たりの補助なので、使用量の大きな世帯や事業所ほど補助額は大きくなります。
検討過程終盤に、自民党が突然、公明党の提案を受け入れ、子育て世帯支援金の支給を決めたことにも驚かされました。子ども一人当たり一律2万円を、所得制限なく支給します。食料インフレの中、育ち盛りの子どもの支援をというのはわかりますが、年収数千万円以上の家庭のお子さんに2万円の追加支援金が必要だとは、とても思えません。実施のスピード感を重視したのでしょうが、その分、歳出規模は大きくなりました。
夏の参議院選挙で争点となった、消費税減税や現金給付が見送られた分、ガソリン減税はじめ、電気・ガス料金補助、子育て支援金、おこめ券やクーポン券などの支給が、その代替手段になった格好です。
さらに、高市総理大臣肝いりの危機管理成長投資には7.2兆円が投じられます。当初予算で大胆な政策の組み換えが難しいため、このところ、年度途中の経済対策と補正予算で、新しい政策に財政資金を投入することが常態化しています。成長投資には期待が大きい反面、検討時間が短い中で、あれよあれよと、額が積み上がった感は否めません。
大きくなるにつれて円安・債券安に
この間、金融市場では円安・債券安が進みました。円相場は1ドル157円台へと、夏場から10円もの円安水準です。1ユーロはなんと181円台と、統一通貨のユーロ誕生以来の安値更新です。債券市場では国債が売られ、長期金利の代表である10年物の国債利回りは、20日には一時、1.835%にまで急騰しました。高市政権発足時の長期金利は1.6%台、年初は1.1%程度でしたから、かなりハイピッチです。
経済対策の規模が大きくなるにつれて、金融市場では、日本の財政悪化懸念が強まり、円や日本国債が売られているわけで、明らかに市場からは「黄信号」、警告が発せられていると受け止めるべきでしょう。
かつて、経済対策は「大きいことは良いこと」でした。規模が大きくなる、或いは規模を大きく見せると、株式をはじめ金融市場は、それを評価したものです。しかし今や、大きくなるにつれて、金融市場の懸念が強まる展開に変わってきているのです。
それは、日本の財政状況が一段と悪化しただけでなく、円安も、長期金利の上昇も、微妙な局面に立たされているからに他なりません。円安は、適度なら、輸出企業の追い風になるメリットがありますし、長期金利の上昇も、景気回復やインフレ定着を見通した緩やかなものであれば、合理的です。しかし、もはや、そこまでのんびり眺めていられる状況ではなさそうです。
円安と長期金利の上昇がシンクロする「悪循環」、長期金利の上昇が更なる財政悪化を招く「悪循環」、そうしたリスクを意識せざるを得ません。














