「1回お湯を通しただけで捨てるのはもったいない」

ただ、施設の年数が経つにつれて新たな課題が出てきた。それは、バイオガスの量が減少してきたことだ。人口減少によって下水汚泥が減ってきたことに加えて、バイオガスのボイラーの蒸発効率が低下していることなどが原因と考えられた。

発電量を増やすためにもっとコーヒーかすを集めようと、市内のファミレスやコンビニにも相談したものの、なかなか賛同が得られなかった。そこで大矢さんが思いついたのが、黒部市内の家庭からコーヒーかすを集めることだった。

「私の自宅は富山県外ですが、ある日家でコーヒーを淹れていて、黒部市だったら有効に使えるのに、1回お湯を通しただけでかすを捨てるのはもったいなと思いました。その時に、黒部市ではコーヒーかすを直接下水に流しても問題がないことに気づきました」

黒部市は生ごみを粉砕処理するディスポーザを設置した家庭に補助金を出し、市内での普及率向上を目指している。家庭ごみを処分する際の収集コストが高くなっていることから、ディスポーザから下水に直接流すことで、一般的に可燃ごみの3割から4割程度を占めると言われる生ごみの量を減らすことと、ディスポーザで粉砕した生ごみと下水汚泥などを混合発酵させて、バイオマスを取り出すことが狙いだ。

また、市内を流れる黒部川は、3000メートル級の北アルプスから黒部峡谷を一気に駆け下る世界的にも急流な河川で、巨大な扇状地が形成されている。この地形によって下水も低地に向かって流れていくため、ある程度粉砕された生ゴミであれば、下流の低地にあるバイオマスエネルギー利活用施設までスムーズに届く。

市と黒部Eサービスでは、粉砕された生ごみと同様に、細かいコーヒーかすであれば、そのまま下水に流すことで施設に届くことに気づいて、2023年2月から市民に呼びかけを始めた。すると、家庭のほか、喫茶店からも持ち込まれるようになった。家庭から集まる量は多いとは言えないものの、発電量を維持するのには役立っているという。