選挙後に村井氏が打ち出した異例の新方針

「敗戦の弁まで考えた」と話すほどの極めて厳しい選挙を戦い終え、僅差で6選を果たした村井氏。当選から一夜明けた会見では、今後県内で行われる選挙において、県による「ファクトチェック」を実施するという、異例の考えを表明した。

権力者側がファクトチェックを行うことには、少なからず批判もあるはずだ。しかしこの動きは、村井氏がそれだけの危機感を覚えたということの表れだろう。「ファクトチェックは選挙期間中に行わなければ意味がない」とも述べた。

県による「ファクトチェック」機関の設置の検討を表明 10月27日

放送法に基づき、私たち放送局が選挙報道を行う際は「政治的に公平な立場」であることが求められる。ある候補者を一定程度取り上げるならば、ほかの候補者についても同じように取り上げる必要があるのだ。

しかし、今回の選挙を経験して強く感じたのは、SNSの台頭がもたらす深刻な悪影響だ。情報拡散のスピードと匿名性によって、選挙の中立性が揺らぎ、ひいては民主主義の根幹を脅かしかねないという危機感を覚えた。報道のあり方も変わるときが来ているのかもしれない。

いち宮城県民である私が思うこと

ところで、選挙を取材していた記者の私もいち宮城県民だ。今回の激動の知事選を振り返り、思うところがある。

今回の知事選は、果たして県民のためになったのだろうか?政策論争は深まったのだろうか?未来に希望は持つことができた県民はいたのだろうか?

村井氏は、当選直後のメディアからの質問で、参政党の神谷代表について「選挙が終わればノーサイド。機会があればお話ししたい」と答えた。そこまでは良かったのだが、その直後の行動が物議を醸した。

不敵な笑みを浮かべて、舌を出したのだ。SNS上では村井氏の「舌ペロ」と呼ばれ、「品がない」「有権者にも失礼」などと批判された。県に寄せられた苦情は300件を超えるほどだったという。

後日、村井氏は「侮辱する意図はなかった」などと弁明したが、侮辱の意図があったと受け取られてもおかしくはない行為だ。失望した有権者も多いだろう。私もその1人だ。

本人曰く、今回の選挙戦では「ワンマン」「傲慢」といった批判が多く寄せられたという。その反省からか、村井氏は6期目について「1期目に戻ったような気持ちで初心に帰り、謙虚に県民の声を聴く」と話している。

このまま行けば、県政史上最長の6期24年の長期政権を築くことになる村井氏。私たちメディアも監視の目を休めてはならないと考えている。

〈執筆者略歴〉
阿部 航介(あべ・こうすけ)
2013年tbc東北放送入社。
テレビ営業やラジオ制作の部署を経て、2018年10月から報道部。
2025年4月から県政キャップと選挙報道を担当。

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