父がいないからとひねくれた人間になるな
死刑が執行されるのは、4月6日の深夜、7日に日付が変わってすぐだ。息子たちのことを思って涙があふれてしまった松雄は、顔を洗ってさらに息子たちへ気持ちを綴る。
<藤中松雄の遺書 二人の息子へ 1950年4月6日>
特に兄である孝一ちゃんはしっかりして母を助け、孝幸ちゃんの面倒を見て下さいね。父は誰よりも、孝一ちゃんは母思いでそして弟思いである事を一番良く知っております。だから父は安心して御佛の国へ行く事が出来ます。これは孝ちゃんのお陰様です。有難う孝ちゃん、感謝するよ。
父は孝一、孝幸ちゃんに何一つして上げる事は出来なかったな。それが一番、父は残念です。可愛い孝一、孝幸ちゃんに父は何一つして上げる事は出来なかったが、それぞれ母ちゃんの御苦労を察してね。
孝一、孝幸ちゃん、父がいないからと力を落としたり、ひねくれた人間にならないでね。他の友達には父があって自分達にはないとか思わないでね。父はいないが、孝一、孝幸ちゃんには永遠の御親様がおられるのです。父にあまえる事も、叱る父の声を聞く事も、慈悲に充ちた父の愛を甘受する事は出来ないが、孝一、孝幸ちゃんは合掌する事、佛を拝む事を知っているのです。合掌の姿、元は人間が持つ如何なる宝より尊い姿なのです。
以上書いたら夕食になる。その事は先生にお願いし書かない。食事に一時間半程費ふ。
















