隠された失業率と国家安全の優先
コミュニケでは直接言及されていませんが、こうしたメッセージは、現在の高い失業率と景気低迷という大きな課題を、習近平指導部が認識している裏返しでもあります。
中国問題に精通した日本の外務省の元キャリア官僚と意見交換した際、その元官僚は「中国政府発表の統計、特に経済関係の統計は全く信用できない」と言い切りました。失業率についても、今年9月現在で学生を除いた16~24歳の失業率が17.7%と発表されていますが、この元官僚によると、「ほんの数日間だけ働いて、ほとんど失業状態にあっても、失業者とみなされない」ように統計上カウントされており、実態は極めて深刻だといいます。
中国は日本をはじめとする外国資本を呼び込みたいはずですが、習近平政権にとって、経済よりも「国家の安全」が優先されます。スパイ防止法の強化がその典型です。先週の重要会議でも、社会の安定を維持するため統制を強める路線を改めて明確にしました。
習主席が好む「自立自強」という4文字は、対米輸出規制で苦境に立つ自らのジレンマを表すとともに、西側社会をさらに遠ざけるものになりかねません。
首脳会談の行方と「夢」の行方
習近平主席とトランプ大統領は、10月30日に韓国で首脳会談を行う予定であり、低迷する中国経済と、保護主義を強めるアメリカの関係がどうなるのか、注目が集まります。
冒頭で紹介した中国のEVメーカー、BYDは「Build Your Dream」(夢を築こう)の頭文字です。自動車を買う人だけでなく、BYDという企業、そして中国という国家の「夢」を、この難局の中でどう築いていくのか。その行方に関心が集まります。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める
 
   
  













