■ 冬の夜の海で子を背負い「お母さん冷たい。どこにいくの?」

多くの被害者がいま、子や孫にも“原因不明の異変”が出ていると訴えています。
皮膚疾患、倦怠感、先天性の異常──。




しかし、“油症との因果関係”を科学的に証明することは難しく、発覚当時の混乱期を除いて、油症と認定された次世代はほとんどいません。

油症認定患者 山口美穂子さん(仮名):
「(子どもの)体の状態が、自分と全く同じなんです。『恨む、恨む、お母さんさえ食べてなければ』(と言われる)。
娘には(先天性の)“副乳”がある。孫にも…それが一番堪えた。

楽になりたいって…疲れてしまって。
(子どもを背負って)夜の冬の海に入って行った。
子どもから『お母さん冷たい。どこに行くの?』と言われてハッと気づいた。
海の中に入っていました。主人にも言えなくて。
なんで生きているんだろうって思って。子供たちにも申し訳ない。孫にも」

『自分が油を食べたせいだ』絶望と恐怖が、被害者を追い込んでいます。

油症認定患者 山口美穂子さん(仮名):
「助けて下さい。なんとか…。
どうやって被害者の認定を決めているのか分からないけど…“せめて(子どもを)認定して頂けないでしょうか”って言いたい」

油症の認定は全国油症治療研究班の診断基準を元に、各都道府県が行っています。
認定されれば、加害企業に医療費を請求できますが、今の基準で認定される次世代被害者は“ほぼいない状態”です。
国の調査が救済につながるのか?次世代健康影響調査の結果は、2023年6月に公表される予定です。
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【カネミ油症事件】
1968年(昭和43年)カネミ倉庫(本社 福岡県北九州市)が製造する食用油に『PCB・ダイオキシン類が製造過程で混入』した事が発覚。西日本一帯で多くの人に深刻な健康被害を引き起こした。
ダイオキシン類の半減期は人の寿命を越え、被害者の体内には未だ高濃度に残存している事がわかっている(全国油症治療研究班)。
『胎児には胎盤等でブロックされほとんど移行していない』とされているが、その一部は移行し、“死産や流産”を引き起こしたほか、“色素沈着の見られる赤ちゃん”が生まれた。
“黒い赤ちゃん”の誕生は世間に衝撃を与え、仕事や結婚への影響を恐れ、多くの人が被害を隠したまま今に至る。
しかし発覚から半世紀が過ぎた今、次世代からも健康被害を訴える声が上がっており、国は2021年(令和3年)に次世代健康影響調査に着手した。
“受精卵時からのダイオキシン曝露”を調べた研究は世界でもなく、今回が初めての調査となる。
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カネミ油症事件から55年 次世代健康調査 公表を前に
第1回:「産んで欲しくなかった」次世代が抱く恐怖と差別 “黒い赤ちゃん”として生まれた子どもたち
第3回:「PCBがなかったら人生は狂っていなかった」次世代に続く油症被害者の救済で 企業責任の行方は
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