北村、綾野のキャスティング秘話~配役案を消して出した企画書~ 

――ところで、北村匠海さんと綾野剛さんのキャスティングについては、元々、永田監督のご希望だったそうですね。

永田 それが実は偶然だったんです。というのも、希望はあったんですけど自分の監督キャリア的にお二人のビッグネームは押さえられないと思っていたので、プロデューサーには言ってなかったんですよね。

森井輝プロデューサーにこの企画を渡した時、キャストの名前は全部消して渡したんですよ。既に私は1年以上、『愚か者の身分』に取り組んでいたので、森井プロデューサーに私がいろんな意味で凝り固まってると思われたくなかったんですよね。もう一度、まっさらな気持ちで森井プロデューサーと一緒にやっていくぞというつもりで、私が勝手に考えていたイメージを全部消して渡していたんです。

だから彼が「匠海くんがやりたいって」「剛くんも受けてくれるって。この2人でいいよね?」みたいな感じで言われたときに、本当にびっくりして…。「やった!!」って(笑)。

©2025映画「愚か者の身分」製作委員会

――3人の中で一番下の弟分マモルを演じた林裕太さんはオーディションで選ばれたそうですね。

永田 キャスティングの方から「このぐらいの歳の方で実力もありそうな人」と選ばれた数人のオーディションでした。皆さん実力は本当に素晴らしかったのですが、林くんは私がイメージしていたマモルで、「マモルがそこにいる!」と思いました。

オーディションのときに演じてもらったのは、シェアハウスでベッドが隣同士のタクヤが、マモルにパンを投げるシーンです。マモルは、絶対に手を出さないぞと思っているのにお腹がすきすぎて食べてしまいます。その“食べ方”というか“貪り方”がすごく良くて、目力も不信感も「マモルの一番芯の部分をちゃんと持っているな」って思ったんですよね。

©2025映画「愚か者の身分」製作委員会

「バランス良くはまった」3人

――その3人が揃って「最優秀俳優賞」を受賞したことは、まさにベストマッチングでしたね。

永田 いろんなことのバランスがすごくちょうどいいんですね。3人ともすごく素直で情熱をちゃんと持っていて、決して斜に構えたりしない。3人集まって取材とかしているのを見ていると本当に愛おしいです。

匠海くんと剛さんは、「幽☆遊☆白書」でもご一緒されているんですが、アクションが多く芝居という芝居は少なかったみたいで、今回お互い初めてちゃんと芝居をしたみたいなんです。

その中で剛さんはどちらかというと、自分のお芝居プランがきっちりある方なんです。私が剛さんの考えをしっかり受け止めようと話をしている間、匠海くんはただ横で何も言わずに待っているという。

出しゃばって来ない匠海くんがいて、だけどちゃんと芯はあって。その彼が林くんには何かを伝えたいと思いながら譲りつつ、常に兄貴分として彼を支えてくれる。プライベートでもそんな感じでサポートしてくれていました。

きっと性格のバランスがいいんですね。いろんなことが「本当にうまくバランス良くはまったな」と感じます。3人が三様にいいので、そこをやっぱり観てほしいなと思うし、評価されたことの1つに、それぞれのキャラクターが死なないように編集まで持っていけたということがあると思っています。

というのも、尺との戦いになったときに、「ここはあんまり本筋と関係ないから切ろうか」っていう、10秒15秒の積み重ねで編集点を探ることがあるんです。そういう時に登場人物たちのささやかな仕草なんかを切らずに残せた。そのことは大きかったかなと思うのです。何かそういう登場人物の奥行きを観て感じてもらえたら嬉しいなと思います。